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イブのおくれ毛77

时间: 2020-06-20    进入日语论坛
核心提示:スポーツ精神春のセンバツ高校野球で、代表にえらばれながら、国もとの生徒が不祥事件を起したばかりに、急遽《きゆうきよ》、出
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スポーツ精神

春のセンバツ高校野球で、代表にえらばれながら、国もとの生徒が不祥事件を起したばかりに、急遽《きゆうきよ》、出場辞退して引きあげたチームがあった。
「ヘンな話ですなあ」
とカモカのおっちゃんはいう。
「わるいことしたんは一部の生徒やから、べつにチームと関係おまへん。出してやったらええのに」
「でも今までもみんな、責任とって出場辞退するのが前例ですね」
と私はいった。
「そんな前例、おかしい。連座して刑罰を受けるというのは前近代的ですぞ。一部がわるかったから、全部に責任とれ、というのは、ファシズムです。そない赤眼吊ってさわぐほどのもんではないと思いますのやが」
「まあ、野球ですから、いうならおあそびですもの、出場辞退いうのも、ええでしょう」
私、自分でも何をいってるのかわからない。
要するに私は、この件について、何らの関心もないし、第一、野球そのものの醍醐味もわからぬ上に、甲子園出場に賭ける夢や希望、期待のロマンを、さっぱり解しない朴念仁《ぼくねんじん》なのである。
「いや、タカが野球やから、出してやってもどうちゅうことない、思いますねん」
おっちゃんは、わりあい、しつこくいう。
「僕は、一部の生徒がわるいことしたから、全校、謹慎せよ、出場辞退せよ、とせまるその根性がおそろしい。——つまり、昔の軍隊なんかで、ですな、誰か一人ヘマをやると、隊員全部、ビンタ張られるという、あの全体主義の臭いを感じとりますねん」
「まあ、それもそうですが」
私としては、出場させてやっても、どうということない、という気である。しかし、出場辞退を是認する人々の心の中には、軍隊のビンタとちがって、出場は栄誉あることであり、その栄誉にいささかのキズもつけまいとする夢があるからだろうと、察したりする。
「それも、おあそびのルールと思えば、たのしいのではないでしょうか」
つまり、野球なんて、トランプや百人一首のかるたと同じでしょ。
それぞれ競技にはルールがあり、なんか一つヘマをやると、ご破算になる、双六《すごろく》の賽《さい》の目ひとつで、せっかく上りかけてたのにふり出しへ戻る、というようなもので、それもおもしろいんじゃないでしょうか。
「じつは私、出場辞退で、くだんのチームが泣き泣き帰郷したとき、新聞社にコメントを求められて、そら辞退して謹慎しなさい、というたんですけど」
「なんでそんなこと」
「おあそびや、と思うて」
「おあそびやから、出さしたったらええやないですか」
「でも、そんなんも、スリルがあっておもしろいやないですか」
「スリルやおあそび、いうてよろこんでるのはおせいさんだけで、世間ではそんなこと思《おも》とらへん、ただもう、目ェ三角にして高校野球の精神、なんてことをいう。そこへおせいさんみたいにおちょくったかて通じへん。よけい、精神主義になってしまう」
「わからんかなあ、これが」
しかし私とおっちゃんは、たった一つの点では意見が一致した。つまり、野球は、野球道というものでなくて、オアソビだということだ。
「ついでにスポーツも、おあそびでしょう?」
「そうそう」
「スポーツと、精神を一緒くたにするのは、あかんねえ」
「その通り。スポーツやったかて、精神の向上に資するとは限りまへん」
「だいたい、体育部、応援団というようなところにいるの、偏向したヘンなのが多いねえ」
「さよう、なんでこない話が合うねん」
とおっちゃんは、勝手にお酒を徳利にうつし、勝手に燗をしつついう。
お酒を飲もうとするときは、おっちゃんはきわめて機嫌よく、私の説に逆らわないようである。
私はいつだったか、盛り場を歩いていて異様な光景を見た。あるレストランの入口に、黒い詰衿の学生服の一団が、両側にずらりとならび、まるで暴力団の葬式みたいな感じなのだ。
レストランに入ろうとする客は二の足をふんでやめてしまう。といってもべつに、その日、そのレストランは彼らの借り切りではなく、中にはふしんそうな顔で入ってゆく家族づれもあるのだ。
時折、ある男が入ると、入口の黒い一団は「オーッ」というような奇声をあげて、うやうやしく敬礼する。
レストランの入口によくある会合の名札を見ると、「○○大学○○部様御席」とあった。
むろん、これは体育部の中の一派である。
文学青年や、音楽青年、絵画青年、落語青年たちが、こんなデモンストレーションをしているのは見たことがない。なぜ体育青年というものは、ああいう顕示欲が強いんでしょうね。
「それはスポーツを正義の味方、みたいに考えるからとちがいますか。スポーツやっとる人間はわるいことせえへん、いうのは、あれはウソ」
「そうです。スポーツやったかて根性曲りは根性曲りです」
「なんでこない、話が合うねん」
とおっちゃんはまた、勝手にお酒を持ち出してつぐ。しかし私はおしゃべりに忙しいので見逃すことにする。
「健全なる精神は、健全なる肉体に宿る、なんてウソですね」
「健全なる性欲は、健全なる肉体に宿る、というのもウソですな。結核患者は健康人より強いのをみてもわかります」
どうしていつも、おっちゃんの話はそこへくるのだ。しゃァない、私も議論はやめて飲むことにする。
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