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女の長風呂47

时间: 2020-06-25    进入日语论坛
核心提示:ファウンデーション「秋めいてきましたな」とカモカのおっちゃんがやってきていった。そこで私は、「秋来ぬと」と胸を張り、鼻の
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ファウンデーション

「秋めいてきましたな」
とカモカのおっちゃんがやってきていった。そこで私は、
「秋来ぬと——」
と胸を張り、鼻の穴をふくらませて朗誦する。
「目にはさやかに見えねどもォ……風の音《おと》にぞおどろかれぬるゥ……」
「おや、うたい上げましたね。秋は男には酒の美味《うま》い季節ですわ、これがうれしい」
「女は、白粉がよくつきます」
私はいった。夏のあいだ荒れてキメが粗くなっていた肌も、秋風と共にひきしまってしっとりして、われながら白粉のツキがいいように思われる。
「へえ、おせいさんでも化粧する?」
おっちゃんが驚くのもむりないが、しかし私はこれでも人前に出るときはしてるのだ。ほんとうは邪魔くさくて化粧などしたくないのだが、女が素顔で人さまの前に出るのはいけないと思う。美しく見られたがっている、男に気に入られたがっている、と表現するのは、これは女の礼儀である。
化粧していることは、女の弱点である。
弱点を見せるのは人間としてあらまほしく、好ましきことである。——いやべつに、そう深く考えてやってるわけじゃなく、習い性《せい》となって化粧する。しかし本来、その時間もなく好きな方でもないから、邪魔くさいなァと思う心持はなくならない。
まして香水などは、つけないというより忘れてしまう。高価な香水を頂いても、使い忘れて蒸発させてしまったりする。
ついでにやけくそで本音をいえば、「女の|すなる《ヽヽヽ》」下着の掟もろもろ一切、もう私には邪魔くさくて煩わしくて仕方がない。
ファウンデーションというたぐいのすべて、ブラジャー、ガードルの身を緊《し》めあげる苦しさ、兵隊が重装備で四キロ走らされるのとどっちが|しんどい《ヽヽヽヽ》か、まことに要らざる苦役だと思うものだ。
しかも兵隊ならアゴを出し汗を流し顔を苦悶にゆがめていてもいいのだ。いよいよ、いけなくなればバッタリ斃《たお》れて落伍すればすむじゃないか。しかし女が顔をゆがめられますか、いかに窮屈でも苦しくても、胃がむかついても、ぎりぎりとSMごっこよろしく緊めあげられた下着を装着したまま、ニッコリと笑い、優雅な身ごなしでねり歩き、人におじぎし、お愛想の一つもいわなくちゃならんのだ。うわあ、しんどい、もうダメ、と思ったって、その場でバッタリ斃れるわけにはいかぬ。あくまでニコヤカに愛嬌をふりまきつつ家へ着くまでもちこたえなければならん。自分の部屋でバッタリ、斃れてのち止む、ということになる。女が、ブラジャー、ガードル、ナイロンのストッキングをとったときの爽快感は、男の知らぬ至福の境地であろう。
この頃はカツラというものまであるので、こういうのをかぶっているとあたまがむれて、暑くるしい。人によっては付けマツゲなんてのもあろう。入れ歯もあるかもしれない。
なべてそういうマヤカシのたぐい一切、私にはもう、ふるふる、いやになってきた、何を好んで緊縛《きんばく》趣味に堕《お》ちなくちゃならんのだ。
その意味から、指輪、イヤリング、ほんとうはきらい。指輪は夏やってると暑い。ネックレスも汗ばむ。冬は冷たい。いいことはちっともない。
まだいえば、靴もいやだ、ほんとうはハダシで歩きたいが、やや妥協して、ワラジぐらいで歩きたい。すべて体をくくり規制するもの、余分なものは本来、あらずもがなのマヤカシであるのだ。
マヤカシといえば、ナイロン製品を女性の下着に使うのも、これもいと怪しきことにこそ。
ナイロンストッキングなんてものは、夏の暑くるしさたとえん方《かた》もなく、冬の寒さはいわずもがな。パンストなんか夏はいてたら、燃え上がりそうになる。
ナイロンパンティなんか色とりどりあって薄くて蝉の羽みたいで、見てる分には美しいのであるが、あれを使うと衛生によろしくない(そうだ)。ナイロンのパンティは洗えば汚れをとどめないで元通りきれいになるが、その代り、汗も吸ってくれない。汗を吸わないで下着が何になるものか。誰に見しょとて花模様やピンクやブルーやとパンティに数奇《すき》を凝らすのだ。世には心得ぬことのみぞ多かる。
さらにナイロンのネグリジェなるものがある。
昔、「ダイヤルMを廻せ」という映画で、グレース・ケリーが、ナイロンの透けるナイトガウンを着て電話をかけるシーンがあった。ダイヤモンドの硬質の輝きを思わせる美女のグレース・ケリーが、天女の羽衣みたいに軽く薄く透ける衣を羽織っているのは、女心をときめかすものだった。そのころの日本にはまだ、ナイロンのネグリジェは普及していなかった。
いまは天女の羽衣にしろ、蝉の羽にしろ、思いのままの美しいナイロンネグリジェがちまたに氾濫している。素肌にひっかけてこれ見よがしに遊弋《ゆうよく》したら、男どもの目をそばだたせるかもしれない。悩殺するかもしれない。
うすものに透けて見える肌は、実際以上に美しい玉の肌に見せるかもしれない。花嫁たちが神聖な初夜の床に、ナイロンのネグリジェをたずさえていったりするのも、美しいが上にも美しく見せようという女らしい心づかいのためであろう。
しかしそれがマヤカシの大なるものだと私は思うのだ。
あんなものを実際に着て寝たら汗ぐっしょりだ。胸と胸の間に汗がたまって、「わが胸の底のここには」涙の谷ができるのだ。あれは実用でなく、しばしがほど(ぬぐまでの間)着てうろつくためのもの、するとやはり花嫁用かしらん。
総じて女にまつわる一切のものは、かくの如くまやかしが多い。私はできるだけ原始素朴な身じまいをし、真実に近づき、女仙人のごとく簡素に生きたい。男はいったい、ごてごて飾りたてたのと、女仙人の簡素といずれを好むであろうか?
「さァ」
とカモカのおっちゃんは盃を置いてしばし考え、
「わるいけど、男は、女の身につけるもんなんか見とらへんよってね。男は女の着るもんを透してハダカしか見とらへんのだ」
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