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女の長風呂72

时间: 2020-06-25    进入日语论坛
核心提示:翠 帳 紅 閨「翠帳紅閨《すいちようこうけい》、万事ノ礼法、異ナリトイヘドモ 舟ノ中、波ノ上、一生ノ歓会、是レ同ジ」という
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翠 帳 紅 閨

「翠帳紅閨《すいちようこうけい》、万事ノ礼法、異ナリトイヘドモ 舟ノ中、波ノ上、一生ノ歓会、是レ同ジ」
という詩が「倭漢朗詠集」にある。
これは、結構な御殿における、正式な夫婦のちぎりも、波を枕の舟まんじゅう、遊女とのたのしみも、歓楽という点においては、みな同じもんや、というほどの心であろう。
この作者は、貴族の男である。エリート階級である。人足・博労、つまり当時のことばでいうと、仕丁《しちよう》や雑仕《ぞうし》や、牛飼のたぐいではないのだ。だから、彼のマイホームは、金殿玉楼というか、まさしく翠帳紅閨の中で、妻としたしんだであろう。
そんな彼が都を離れて、たとえば、江口あたりへくる、と、いぶせき浦の|とまや《ヽヽヽ》なんかへ遊女に案内されたりする。ことにこの詩人の貴族なんか、たいへんな物好きである(これは時代をとわぬ。詩人ですらしかり、作家は推して知るべし)。汚なけりゃ汚ないほど、フレッシュで面白がる。ほかの同行の貴族は、江口の長者のキンキラキンの館で女を抱いていようというのに、この物好き詩人は敢《あえ》て最下等の舟まんじゅうなんかに声かけて、芦の根、ススキの根をふみわけふみわけ、
「これ、麿《まろ》をどこまでつれていくのじゃ」
なんて結構おもしろがってる、その舟まんじゅうの仕事場は小舟の中で、浪花は道頓堀川の牡蠣《かき》舟よろしく岸辺に|もや《ヽヽ》ってあり、
「ちょいと兄さん、ここなのよ」
などといいざま、潮垂れムシロをはねのけて連れ込んだりする。都そだちのエリート貴族はもう、物めずらしさに有頂天、目に入るもの耳に聞くものことごとくおもしろく興そそられ、大ハッスルして、詩想湧くが如く、こんな取材、誰もまだやってへんのちゃうか、と友人の貴族の誰彼の顔を思い浮かべ、優越感にひたる。そして「御殿も浦の|とまや《ヽヽヽ》も、男女の歓会はみな同じ」と当り前なことを大発見のごとく思う。都へ帰るや、さっそく筆をとり、前記の詩を按じたのにちがいあるまい。
しかしながら、女はどうかというに、場所をとわず歓会はみな同じ、といえないから困るんだ。場所がかわれば気もかわる。男はどうだろうか?
「いや、男は変りまへん。歓会はどこでやろうと同じです」
とカモカのおっちゃんはいう。
「ただしかし、いまどき、翠帳紅閨の結構な御殿で歓会を倶《とも》にするのは、道ならぬ相手専門の場合が多いですな」
「なるほど、正式な夫婦の場合の方が、いぶせき団地の二DKやったりして」
「そうそう、片道二時間という通勤地獄の辺陬《へんすう》の地のマイホームやったりして、家ではいろいろと、うっとうしいことが多い」
「たとえば」
「せっかく今晩は女房《よめはん》にサービスしよう、いう殊勝な心がけをおこす、そういう晩に限って年寄りがいつまでも寝よらへん」
「そんな年寄り殺してしまえ」
「メガネが紛失したの、茶を淹《い》れてくれの、どこそこの娘の婚礼に祝いはいくら出したのか、などという、やっと追っ払うとこんどは大供子供、授業料がどうの、明日の靴下がないのと、女房《よめはん》をよびたてる」
「なるほど」
「やっと静かになったかと思うと、電話が鳴る、戸じまり忘れてへんか、子供がストーブ消し忘れてへんか、と女房《よめはん》は一々おきていく、そのうち台所で夜食をつくるジャリ共がワイワイいうて、いやもう、そのうるさいこと、あほらしィて、その気になれまへん」
「しかし、いつもいつもそんな具合ではないでしょ」
「いつもいつも、そんな具合です、この年では。タマに日曜の昼やなんか、エアポケットにおちたみたいに、ポカンと誰も居らんときがある、いざこの時と女房《よめはん》にもちかけますと、これが、文句たらたら」
「と、いいますと……」
「同じことなら、京都のヒーラギ屋へいっぺん泊ってみたいの、六甲ホテルでやりたいの、嵯峨野の宿屋が具合よろしいの、と」
「それはそうです、私も、そうですね」
と私は、おっちゃんの奥さんに共感する、
「やっぱり女はこう、同じことやったらロマンチックな、夢と詩情のあるところでやりたいと……」
「いや、同じことやったら、どこでやっても同じやおまへんか」
またしてもこのオッサンとは、こういうところで食いちがう。
「それは、ちがいますよ。居《きよ》は気をうつす、同じ相手でいいんです、相手までとりかえるとはいわない、いわないが、タマには翠帳紅閨、夢とロマンのあふれる場所へつれていってほしい、それが女というものです。つまり、年寄りの眼鏡さがしたり、子供に授業料渡したり、戸じまり見てまわったり、しなくてすむようなところ、日常次元を離れたところへいきたいものですね」
「いくと、何か、変ったやり方をしてもらえますか」
「何でそんなん、せんならん」
「�いつものように……�というのなら、どこでやったって同じとちゃいまッか、つまり……」
とおっちゃんは具体的に話しかけたが、私の淑女的な気品ある態度に圧倒されたとみえ、話をかえて、
「いや、そら実をいうと、僕かて、家でやると第一、せまいのでかないまへん。床をのべるとあたまの先から爪先まで家財道具がぎっしりで、寝返り打つと、フスマが破れ、伸びをするとテレビを蹴倒しそう、夫婦の歓会なんて思いもよらぬ、もう、家の中ではとりあえず小そうなって寝る、これ専門」
「では、やはり実をいうと外へいって……」
「さよう、広々とした十二畳くらいの日本間、床の間は本床で、結構な掛軸に花一輪、手垢のつかぬフスマをきちんとたてて、香の匂いも奥ゆかしい、そういう日本間で……」
と、おっちゃんはなぜか辺りを見廻し、小声になり、
「実をいうと、ひとりでノビノビ寝たい」
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