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女の長風呂86

时间: 2020-06-25    进入日语论坛
核心提示:酒 呑 童 子中年とは何やろ、とカモカのおっちゃんと話していたら、「ま、ひとことでいうたら、出口なし、という状況とちゃいま
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酒 呑 童 子

中年とは何やろ、とカモカのおっちゃんと話していたら、
「ま、ひとことでいうたら、出口なし、という状況とちゃいまッか」
仕事。家庭。いろごと。趣味。金もうけ。子供。健康。酒。
みな、先はもう、知れてる、というのである。パイプというパイプはみなつまり、四方八方バカふさがりにふさがって、腸閉塞もいいとこ、
「どないしたって、これ以上、ええようになるとは思われへん、わが世の花ざかりも今がセイ一杯の頂上やないかと思うと、まさに出口もなく、手も足も出せないという状態」
ではないかというのだ。
人生中歳に達して、蒸発したり、あるいは転職、離婚などとたのしいクリーニングをやって、新人生にふみだす人はさておき、そうもできない中年たちは、出口のないところでうろうろしている、何かスカッとすることはないやろかと思わぬ日とてない、という……。
まるで私は、中年ではないかのような口吻であるが、中年は中年でも私は女、女はいろいろ発散の場があって、「出口なし」という感じはまだない。おしゃれ、買物(アユ一ぴき、大根一本だって買物の内だ)、人のワルクチ、新製品の台所用具、長電話、亭主をやりこめること、子供にウソつく、家具の配置がえ、友人の物書きに、彼の本の酷評が出た新聞・雑誌を、赤線引いて送りつける、することがいっぱいあって、出口はいろいろあり、この世はたのし、だ。
「いや、男の中年は、そう小廻りはきかない。もう、あきませんな。そやから、どうしたらスカッとするかをいつも考えます」
とカモカのおっちゃん。私、聞く。
「かんしゃく玉なんか、ダメですか?」
「そんなもんで追っつくもんか、それでは戦争ということになるが、いまどきみたいなボタン戦争では、欲求不満は解消しまへん、まァ一ばんええのは、大江山の酒呑《しゆてん》童子になりたい」
「シュテン童子」
「昔、丹波の大江山、鬼ども多くこもりいて……というアレです。山中ふかき所に巣くい、都に出ては金銀財宝、美女、くいものを掠めとってほしいままに狼藉をはたらく」
「なるほど」
「あれは男の——というより中年の——理想ですなあ。あの鬼になりたい。ところで、鬼は、大江山へ女をさらってきて、何をしたんでしょうか」
「炊事、洗濯させてたんでしょう。つまり、当番兵みたいなものとちがいますか」
「だまれ、カマトト」
しかし、私の読んだ小さい時の絵本には、そう書いてあったのです。山伏姿に化けた、源頼光ほか四天王のめんめんが、山中ふかくわけ入ると、谷川で若い女が泣きながら洗濯している、頼光が聞いてみると、
「それは、みやこからさらわれてきた、おひめさまでした。おひめさまは、まいにち、オニのために、せんたくやそうじをさせられて、しまいに、たべてしまわれるので、それがかなしくて、ないていたのです」
とある。子供の私は、お姫さまがなれぬ洗濯や掃除、炊事をするのは大変だろうといたく同情したのだ。その上、給金をくれるどころか食べられてはかなわない。
「食べたのは、ほんまかもしれまへん、しかし、食べるまえに、下ごしらえをしたと思いますなあ」
とおっちゃんはいう。
「下ごしらえ、といいますと」
「つまり、さらって来たのは、たぶん、お姫さまとあるからには、バージンでしょうな」
「かも、しれませんね」
「深窓の姫君の、美しくてかよわくてあでやかなところを料理します。料理もさせたではありましょうが、自分でも、ひととこ、ふたとこ、包丁入れて料理する」
「お姫さまを」
「お姫さまをです。つまり、あとで食うにしても、バージンというのはうまくないですな。妙に堅かったり、肉付きがうすかったりして、ダシかスープ用にしかならんのが多い、それではこまりますから、肉付きよくさせるために、うんと食わせ、その肉に旨味をつけるために、いろいろ調味料をふりかける。ふりかける際に、つまりこう、切れこみを入れたりしまして」
「どのへんに、ですか」
「知らんけど」
「そうして、おいしくさせといて、ほんとにあとで食べる……」
「さよう。考えただけでもナマツバが出ますなあ。わかい娘の、ですな。やわらかな肉、これはちと、まだ肉の旨味が足らんやろうというので、あちこちいじくって、旨味を増し、コリコリさせ、ワケ知りの、ええ味にしたところで、ガブッとくらいつく」
「キャッ!」
「どのへんから食うと思いますか」
「それは……胸肉ではありませんか」
「いや、それはあきまへん、やはり牛肉と同じで腰ですか。サーロインステーキ、もも、しり、いや女やから、サーや無《の》うてレディですな、下半身がおいしそうですな」
「焼くんですか、煮るんですか」
「こんがりと焼きますか、焼けるのを待って酒飲んでる気持は何ともいえまへんやろな、虎の皮のふんどしなんかして、歌うとうて——」
「七つボタンの予科練の歌なんか……」
「何で、大江山の酒呑童子が、予科練の歌うたうねん」
「しかし中年の鬼でしょう」
「中年でもいろいろある、昭和維新うたう奴もあるし、ああ紅の血は燃ゆる、いうのんうたう動員派の中年もいる、僕は九段の母うたう中年の鬼、よろしいか、都へ下りて気のむくままに逃げまどう若い女をひっつかまえ、山の中へさろうてきて切れこみ入れて料理して丸ごと焼いてガブッと食らいつく、ワー、たまらん、ああ、大江山の酒呑童子になりたいですなあ」
とおっちゃんはいい、私のご馳走した饅頭にガブッとくらいついたとたんに、ぽろりと歯が欠けた。惨たり、中年。
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