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花の百名山81

时间: 2020-06-26    进入日语论坛
核心提示:志賀高原  イブキジャコウソウ(シソ科) 志賀高原には久しくあこがれていて、はじめて丸池のほとりまでいった時、その開け方
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志賀高原  イブキジャコウソウ(シソ科)   
 
 志賀高原には久しくあこがれていて、はじめて丸池のほとりまでいった時、その開け方のすさまじさに胸をつかれた。
その前日、まだ、バードラインの通っていなかった戸隠へいったので、そのちがいの大きさによるのであったかもしれない。
九月のはじめで、丸池のほとりには、二、三本のサワギキョウが花を残していたが、とても戸隠の中社のうしろの湿原の大群落には及ばない。戸隠には林芙美子の一生を描くNHKの朝のテレビ小説「うず潮」の取材にいったのである。
芙美子は、新婚の夫君と、下から歩いて宝光社まで、五時間かかっていった。戦争中は、上林温泉に近い角間に疎開したので、当然、志賀高原も訪れたであろうと足をのばしたのだったが、戦前の面影はしのぶよすがもないと見て、取材は中止した。
去年の秋の十一月の山旅に、三木慶介さんが志賀高原をえらんでくれて、志賀にはまだいいところが残っていると言われても、自分の眼でたしかめるまでは信じられなかった。いつか上信越高原国立公園の草津白根から志賀までの高原線ができたとき、雄大な草津白根の山腹を、遊園地の砂場を歩くように軽装で登り降りするたくさんのバスの乗客を見て、この活火山が、はずかしめられた思いに、今にも爆発するのではないかと思ったことがある。
その日、山田牧場の奥から登った笠ヶ岳は二〇七五・八メートル。牧場をはさんで向かいあう横手の二三〇五メートルよりは低いが、頂上までリフトがかけられ、電電公社の無線中継所がつくられて、観光客が混みあい、草津白根の悲劇をくりかえしているのにくらべれば、頂上が露岩に固められて狭いだけ、原始の姿そのままである。中腹まで、七味温泉からの道がのびて、頂上にはほんの一登り、ミヤコザサ茂る急坂を一汗流して辿りつく。ヤマハハコやゴマナやハンゴンソウ、ノコギリソウなどの花々が高原の晩秋を飾っていた。かつての笠ヶ岳は地元のひとたちの信仰登山の中心で、村々から標高差で千二百メートルある山を、白装束に身を固め、数時間かけて登って来たのだそうだ。横手山や志賀山よりも古く、熔岩の噴出によって出来た山容が円錐形をつくり、遠くからも目立って、ひとびとの心にも志賀高原の中心のような印象を与えたのであろう。
頂上の下よりにコメツガやダケカンバが生い茂り、その下草にシラタマノキやイブキジャコウソウが生えている。この花には北海道で、信州で出あって来たが、やっぱり伊吹山の頂上周辺が一番多かったと思う。
前方に妙高、黒姫、戸隠連峰、はるかに白馬のあたりの山々を望んで、たのしく下山してくると、一人の山仲間が、道ばたの石につまずいて骨折したという。
骨折は私も十五年前に苦しい体験をして来たので、おどろいて介抱。見知らぬ青年が副木をあててくれていて、小屋のひとの車で、須坂市の病院に運んで処置を受け、入院ときめた。幸いに私の須坂の親戚のすぐそばであったので、あとは親戚のひとにたのんで、一人その夜の泊りの硯川温泉にタクシーをとばす。すでに夜になっていて、灯火一つない崖ぞいの道を走るのがおそろしかった。クマやキツネにあったことがあるとわらいながら話していた運転手も、濃く深くなって来た夜霧に口を閉ざしてしまった。
笠ヶ岳の中腹を通過したあとは、谷に下る道でいよいよ霧が深くなってしまった。車のライトがわずか二、三メートル先を照らすだけである。
両側は何の木の林なのであろう。霧の中にぼんやり浮んでは消え、消えては浮ぶ。こんな時、クマが出て来たらどうしようと怯え、「無事でよかったですね、お客さん」という運転手も硯川温泉ホテルの前に私を下して、同じ心配をしていたのだと知った。やはり志賀高原も奥に入ればおそろしいのであった。ホテルのあたたかい鍋料理を口にして人心地がよみがえり、またそのおそろしさがおもしろかった。
あくる日は渋池のほとりをめぐって志賀山へ。
ダケカンバやアオモリトドマツやコメツガの密生する林の中をだらだら登りによく整備された道をゆく。志賀自然教育園と名づけられて開発からまもられ、自然を残しているのだ。
道はだんだん狭くなり、湿地になり、茂みが深くなり、左折して登りにかかる。アカミノイヌツゲやオサシダやヤマソテツやクサソテツが目立つ。
霧の湧くところらしく、岩にはびっしりと青苔がついている。ヒカリゴケを見たというひともあり、木かげの岩かげをのぞきのぞき登った。
志賀山の急な下りを下ると、すぐ眼の前に奥志賀山の登りがつづく。この山すそには幾つもの池塘のある湿原がひろがり、モリアオガエルやクロサンショウウオが住むとの説明板が立っている。横手山や丸池附近の賑わいとは別世界のしずけさである。大沼池にむかって、ダケカンバの黄葉の美しい山ぞいの道を歩く。
大沼池は志賀山の噴火による熔岩流にせきとめられた周囲五キロの小さな湖である。水面の標高は一六九四メートル。黒姫山の姫神との間に恋の伝説がつくられているのは、その水の青のいろのあまりにも濃く深いせいかもしれない。
沼と別れ、清水沢をこえて、|発哺《ほつぽ》と丸池との間に出る道は、荒々しいばかりの熔岩の堆積で、ここでもヒカリゴケが見えると、走りよっては岩かげをのぞいた。そして志賀高原はこのあたりにくると全く大自然がいっぱい残っていると、十分に満足した。
 
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