ユウパリコザクラ・ユウバリソウ
夕張岳にスキー場ができそうだという。その計画には、夕張の花たちを愛するひとたちを中心にして、猛反対の運動が起きている。私も署名して、はるかなる東京から、夕張岳の、あのけんらん豪華な花たちよ永遠にと叫んだひとりである。夕張炭鉱が閉山となって、夕張メロンだけでは立ちゆかず、やっぱり家のために身を売る娘のように、夕張岳も売られてしまうのであろうか。いつか秩父の武甲山に登った。あの勇壮な武士を思わせる山容は今や、無残に破壊され、私たちはまだ破壊の手がのびない裏側の道を辿り、そこは植林の中の暗い道で、これではとても岩場に咲く武甲山の名花イワザクラなど見るよしもないと嘆いたが、早春のまだ残雪の残るその日の山行では、思いがけなくセツブンソウに出あえてうれしかった。しかし、このセツブンソウもあと何年のいのちであろうと思えば哀れというよりは、経済優先の人間の考え方に、何とも言いようのない思いであった。武甲山は三十億円で売られたそうだから、あの山が消えるのもあと何年ですかねえなどと聞いたこともある。
私は、この十年来、毎年のようにヨーロッパアルプスのトレッキングをしたり、カナディアンロッキーの山旅をしたのだが、日本の山々は高さこそ低いが、その眺めのゆたかさで、決して他国の山々に劣らぬ魅力を持っていると思って来た。
高山植物の種類のゆたかさではヨーロッパアルプス、カナディアンロッキーに勝るとも思って来た。夕張岳の花々のゆたかさは、大雪山に匹敵する。
ところで、アポイ岳もまた花の山として名高いが、その地質は夕張岳とひとしく蛇紋岩やかんらん岩が主体であり、東北地方で一番花々がいろいろとよく咲いている早池峰山も同じである。かんらん岩や蛇紋岩は、植物にとって不利な成分をふくみ、植物は、それに耐えよう、それに適応しようとして、必死に花のいのちを咲ききるのである。
私は、高山植物が平地の野の花より美しいのは、成育に適しない悪条件の土壌に種子が落ち、その生命をひたすらに懸命に生きようとする姿が、あの美しさを生むのだと思っているけれど、夕張岳には、ユウバリの名のつく花の何と多いことか。
創土社の『北海道の高山植物』にあげられたのは、ユウバリキンバイ、ユウバリクワガタ、ユウパリコザクラ、ユウバリシャジン、ユウバリソウ、ユウバリタンポポ、ユウバリチドリ、ユウパリチングルマ、ユウバリツガザクラ、ユウバリトリカブト、ユウバリリンドウなど。その日、ツバメオモトやキバナノコマノツメ、アラシグサ、ズダヤクシュ、イブキジャコウソウ、クルマバムグラなどは、どこでも見られるので、ただただユウバリソウが見たかった。
登ったのは、大分前のことになるが、夕張市に一泊して、白金川とペンケモユウパロ川のわかれるところにあるヒュッテのそばの登山口に着き、コースは白金川沿いの旧道のとペンケモユウパロ川沿いの新道があるが、馬の背コースとよばれる新道を通り、アップダウンをくりかえし、しかも雪どけの泥濘や水たまりにズブズブと靴が入る悪路で、一の越、二の越と過ぎて、全コースの半分の望岳台に着いた時は、一歩も前に進めない疲れかたであったが、とにかく歩き通して一六六八メートルの頂上の一歩手前の平坦地までゆけたのは、オオバミゾホオズキやエゾノリュウキンカ、ナンブイヌナズナの鮮烈な黄金の色と、ユウパリコザクラの赤紫と、はじめて見たユウバリソウのおかげであったと思う。
奇岩が次々にあらわれたり、湿原になったり、崩壊地が眼の前にひろがったりと思えば、水たまりにミズバショウが咲いていたりという地形の変化も、この山の魅力の一つであろう。
ユウバリソウは頂上に近い崩壊地形の岩の間に群生していて、ユウパリコザクラの赤が、ハクサンコザクラの赤にくらべてずっと濃く、華やかなのにくらべて、意外に地味な色と形であった。これらの花たちや特異な地形は、スキー場と共にその何分の一かが失われるのであろうか。胸もつまる思いである。
私は、この十年来、毎年のようにヨーロッパアルプスのトレッキングをしたり、カナディアンロッキーの山旅をしたのだが、日本の山々は高さこそ低いが、その眺めのゆたかさで、決して他国の山々に劣らぬ魅力を持っていると思って来た。
高山植物の種類のゆたかさではヨーロッパアルプス、カナディアンロッキーに勝るとも思って来た。夕張岳の花々のゆたかさは、大雪山に匹敵する。
ところで、アポイ岳もまた花の山として名高いが、その地質は夕張岳とひとしく蛇紋岩やかんらん岩が主体であり、東北地方で一番花々がいろいろとよく咲いている早池峰山も同じである。かんらん岩や蛇紋岩は、植物にとって不利な成分をふくみ、植物は、それに耐えよう、それに適応しようとして、必死に花のいのちを咲ききるのである。
私は、高山植物が平地の野の花より美しいのは、成育に適しない悪条件の土壌に種子が落ち、その生命をひたすらに懸命に生きようとする姿が、あの美しさを生むのだと思っているけれど、夕張岳には、ユウバリの名のつく花の何と多いことか。
創土社の『北海道の高山植物』にあげられたのは、ユウバリキンバイ、ユウバリクワガタ、ユウパリコザクラ、ユウバリシャジン、ユウバリソウ、ユウバリタンポポ、ユウバリチドリ、ユウパリチングルマ、ユウバリツガザクラ、ユウバリトリカブト、ユウバリリンドウなど。その日、ツバメオモトやキバナノコマノツメ、アラシグサ、ズダヤクシュ、イブキジャコウソウ、クルマバムグラなどは、どこでも見られるので、ただただユウバリソウが見たかった。
登ったのは、大分前のことになるが、夕張市に一泊して、白金川とペンケモユウパロ川のわかれるところにあるヒュッテのそばの登山口に着き、コースは白金川沿いの旧道のとペンケモユウパロ川沿いの新道があるが、馬の背コースとよばれる新道を通り、アップダウンをくりかえし、しかも雪どけの泥濘や水たまりにズブズブと靴が入る悪路で、一の越、二の越と過ぎて、全コースの半分の望岳台に着いた時は、一歩も前に進めない疲れかたであったが、とにかく歩き通して一六六八メートルの頂上の一歩手前の平坦地までゆけたのは、オオバミゾホオズキやエゾノリュウキンカ、ナンブイヌナズナの鮮烈な黄金の色と、ユウパリコザクラの赤紫と、はじめて見たユウバリソウのおかげであったと思う。
奇岩が次々にあらわれたり、湿原になったり、崩壊地が眼の前にひろがったりと思えば、水たまりにミズバショウが咲いていたりという地形の変化も、この山の魅力の一つであろう。
ユウバリソウは頂上に近い崩壊地形の岩の間に群生していて、ユウパリコザクラの赤が、ハクサンコザクラの赤にくらべてずっと濃く、華やかなのにくらべて、意外に地味な色と形であった。これらの花たちや特異な地形は、スキー場と共にその何分の一かが失われるのであろうか。胸もつまる思いである。