コマクサ
『最新俳句歳時記』に「駒草」があり、「高山帯の砂礫地に生じ、高山植物の女王と言われる」とある。
北海道の大雪山で、大町桂月がはじめてこの花に出あって感動して言ったのだという。
女王と皇后とでは語感がちがう。女王はトランプの女王でなくて、やはり、エリザベス女王や女帝マリア・テレサのように、男子をしのぐ権力と勢威を持ったものでなくてはならないような気がする。そして私は、そういう意味での印象を、コマクサの花からは一つも受けない。細くこまかくわかれた葉はいかにも弱々しく、手荒には扱えないもろさを感じさせ、馬の長い顔に似ているなどと言われる花の姿は、仔馬にも|驢馬《ろば》にも似ていないと思う。あるいはこのコマは高麗ではないのか。古代の朝鮮半島の高麗で、それはこの花が何となく異国的な印象を受けるところから来ている。
いつごろからそのように呼ばれたものか、異国的というよりペルシャ的とも私は思う。ペルシャの紋様のつくり出す線とよく似ていて、すでに奈良朝にあって、ペルシャ人は日本にやって来ている。
さて、野生の植物とも思えないこの繊細な花を、私がはじめて見たのは、東北の蔵王山である。絶滅寸前であるのを、栽培しているのを見た。
自然に生えているのは、北海道の大雪山の黒岳で、赤岳の下のコマクサ平で見た。その後白馬で、これも絶滅をおそれて保護されているのを見た。
保護しなければならないほど、山に来てこの花をとろうとするひとがいるのかと、眼の前にいないその人間に向かって言いようのない怒りを感じた。
蓮華岳は、針ノ木峠の東の稜線伝いにあって、レンゲソウのようにコマクサがたくさん咲いている。白馬より黒岳より、コマクサ平よりその花は多く山の斜面を被っていたが、絶滅などと忌まわしいことのないようにひたすらに願っている。
駒草なぶる|雷《らい》ピッケルに触れて鳴る
北海道の大雪山で、大町桂月がはじめてこの花に出あって感動して言ったのだという。
女王と皇后とでは語感がちがう。女王はトランプの女王でなくて、やはり、エリザベス女王や女帝マリア・テレサのように、男子をしのぐ権力と勢威を持ったものでなくてはならないような気がする。そして私は、そういう意味での印象を、コマクサの花からは一つも受けない。細くこまかくわかれた葉はいかにも弱々しく、手荒には扱えないもろさを感じさせ、馬の長い顔に似ているなどと言われる花の姿は、仔馬にも|驢馬《ろば》にも似ていないと思う。あるいはこのコマは高麗ではないのか。古代の朝鮮半島の高麗で、それはこの花が何となく異国的な印象を受けるところから来ている。
いつごろからそのように呼ばれたものか、異国的というよりペルシャ的とも私は思う。ペルシャの紋様のつくり出す線とよく似ていて、すでに奈良朝にあって、ペルシャ人は日本にやって来ている。
さて、野生の植物とも思えないこの繊細な花を、私がはじめて見たのは、東北の蔵王山である。絶滅寸前であるのを、栽培しているのを見た。
自然に生えているのは、北海道の大雪山の黒岳で、赤岳の下のコマクサ平で見た。その後白馬で、これも絶滅をおそれて保護されているのを見た。
保護しなければならないほど、山に来てこの花をとろうとするひとがいるのかと、眼の前にいないその人間に向かって言いようのない怒りを感じた。
蓮華岳は、針ノ木峠の東の稜線伝いにあって、レンゲソウのようにコマクサがたくさん咲いている。白馬より黒岳より、コマクサ平よりその花は多く山の斜面を被っていたが、絶滅などと忌まわしいことのないようにひたすらに願っている。
駒草なぶる|雷《らい》ピッケルに触れて鳴る