そのとき石壁の漆喰《しつくい》のあいだからにじみ出るように、呻《うめ》き声のようなものが聞こえてきました。兵士たちは松明《たいまつ》の火のもとで壁を手探りでさがしまわり、やっと壁と同じ色をした小さい隠し扉を発見しました。そこに押し入って彼らは、排泄物《はいせつぶつ》のむかつくような臭気のなかに、所狭しと折りかさなって呻いている、二十人ばかりのぼろ服の娘たちを見いだしたのです。
まだ息のある娘たちに急いで水と食糧を与えると、娘たちは意識を取り戻し、口々に証言しました。バートリ夫人の召使としてここに連れてこられたのが、着くなりこの石牢《いしろう》に閉じ込められたこと。それ以来一度も食物を与えられず、空腹を訴えると、たがいの肉を食べるよう強いられたこと。その朝フィツコの手で二人の娘が秘密扉から連れだされ、それきり帰ってこなかったこと……。それがさっきツルゾーが見かけたあの死体でした。
そのとき神父が現れて、まだエリザベートが下の別館にいるらしいことを告げました。予想もしてみないことでした。これだけの軍隊の侵入に彼女が気づかなかったはずもなく、一隊が地下を探索しているあいだに逃亡のチャンスはあったはずです。
が、神父の主張にまけて、ツルゾーは二つの城をつなぐ地下道をおりていくことにしました。松明を先だて、彼らは湿った石壁のあいだの狭い曲がりくねった通路を進みました。
長いあいだ使われたことのないらしいサビついたかんぬきを外し、ツルゾーたちは重い鉄の扉をおし、忍び足で別館の一階に降りていきました。
玄関の大広間は錦の垂れ布がさがり、奥の部屋につづく扉が半開きになって、中からかすかな光がもれていました。
きらびやかなドレスと宝石に身を飾って丹念な化粧をほどこし、エリザベートはそこにいました。深紅にぬられた唇から白い歯がこぼれ、彼女は艶然とツルゾーに微笑《ほほえ》みかけました。
「やっとここにいらしたのね」
背筋を凍りつかせるような声で、エリザベートはつづけます。
「あなたにわたしを捕えることなどできるはずはないわ。わたしはエリザベート・バートリ。勇敢なフェレンツ・ナダスディの未亡人です。誰にも、わたしの行為を咎《とが》める権利はありません」
「この女を捕えよ」
低いかすれた声でツルゾーは、かろうじてそれだけ言えました。