そんなドラキュラも、一四六二年に再びトルコの侵略がはじまり二十五万のモハメッド二世の大軍に襲われると、ほうほうの体でトランシルヴァニアに逃げ去りました。このときトルコ軍の指揮をとったのは、兄を裏切ってモハメッド二世についたドラキュラの弟ラドウだったといいます。彼はもともと「美男公」とあだなされるほどの愛嬌《あいきよう》のある美男で、冷酷な兄とは対照的でした。
しかし二千メートル級の山々を命からがら越えて、トランシルヴァニアにたどり着いたドラキュラを待っていたのは、非情な運命でした。彼を迎え入れるどころか、ハンガリー王は裏切って監禁してしまったのです。その後ブダペスト、ベオグラードと、ドラキュラは十二年を牢獄《ろうごく》で呻吟《しんぎん》することになります。
彼が幽閉されたあとは、二十四歳の弟ラドウがワラキア大公の座につきました。彼はトルコに対してとても友好的でした。そもそも彼は兄とトルコに捕えられたときからトルコの生活になじみ、兄の脱出後もトルコ領にとどまってトルコの大守と親しく交わっていました。あだな通りの美青年で、一説にはモハメッド二世に同性愛の相手としてかわいがられていたといいます。いずれにしても六二年から七四年まで、ラドウ治めるワラキアはもっぱらトルコへの忠誠をまもり、比較的平和な日々がつづきました。
一四七四年にドラキュラはハンガリー王の妹を妻に迎えるのを条件に十二年の幽閉から解放され、新妻をつれてワラキアに帰ってきました。そして二年後には弟ラドウと戦って破り、ふたたびワラキア大公の座に返り咲いたのです。
が、愛する美青年ラドウの危機に怒りくるったトルコのモハメッド二世は、たちまち大軍をひきいてワラキアに攻めよせてきました。せっかく取り戻した大公の座に落ち着く間もなく、ドラキュラはそれを迎えうたねばなりませんでした。そしてもう二度と、幸運は彼にむかって微笑《ほほえ》みまなかったのです。
トルコとの戦いは冬のブカレスト郊外ではじまり、そのときドラキュラはワラキア軍がトルコ軍を迎えうっているところをみようと、小高い丘から戦況をながめていました。ところがいつの間にか自軍に取り残されてしまい、気がついたら周りは敵ばかりになってしまいました。それでもトルコ兵の死体の服を借りて身につけ、なんとか危機を脱しました。
やっと自軍に追いついた彼は、自分の格好も忘れ、喜んで駆けよりました。ところがワラキアの雑兵《ぞうひよう》たちは、トルコ兵の格好をした者がまさか自分たちの王とは気づかず、いっせいに飛びかかってきたのです。必死で抵抗したが多勢に無勢で、彼はついに自分の兵士たちの槍《やり》に胸を刺されて息たえました。串刺し公として恐れられた彼が、部下に槍で突き殺されるとは、また皮肉な最期ですネ。彼の首はトルコ王のもとに送られて晒首《さらしくび》になり、首なしの死体はブカレスト郊外のシュナゴフの修道院に葬られました。
このように残虐のかぎりを尽くした彼が、作家ストーカーのイメージをかき立て、しだいに東欧の吸血鬼伝説と結びつけられていったのは、無理もないことかも知れませんネ。ただし本物のドラキュラが、映画のなかのように、若い娘の首に噛《か》みついて血を吸ったという記録はないそうです。念のため……。
が、愛する美青年ラドウの危機に怒りくるったトルコのモハメッド二世は、たちまち大軍をひきいてワラキアに攻めよせてきました。せっかく取り戻した大公の座に落ち着く間もなく、ドラキュラはそれを迎えうたねばなりませんでした。そしてもう二度と、幸運は彼にむかって微笑《ほほえ》みまなかったのです。
トルコとの戦いは冬のブカレスト郊外ではじまり、そのときドラキュラはワラキア軍がトルコ軍を迎えうっているところをみようと、小高い丘から戦況をながめていました。ところがいつの間にか自軍に取り残されてしまい、気がついたら周りは敵ばかりになってしまいました。それでもトルコ兵の死体の服を借りて身につけ、なんとか危機を脱しました。
やっと自軍に追いついた彼は、自分の格好も忘れ、喜んで駆けよりました。ところがワラキアの雑兵《ぞうひよう》たちは、トルコ兵の格好をした者がまさか自分たちの王とは気づかず、いっせいに飛びかかってきたのです。必死で抵抗したが多勢に無勢で、彼はついに自分の兵士たちの槍《やり》に胸を刺されて息たえました。串刺し公として恐れられた彼が、部下に槍で突き殺されるとは、また皮肉な最期ですネ。彼の首はトルコ王のもとに送られて晒首《さらしくび》になり、首なしの死体はブカレスト郊外のシュナゴフの修道院に葬られました。
このように残虐のかぎりを尽くした彼が、作家ストーカーのイメージをかき立て、しだいに東欧の吸血鬼伝説と結びつけられていったのは、無理もないことかも知れませんネ。ただし本物のドラキュラが、映画のなかのように、若い娘の首に噛《か》みついて血を吸ったという記録はないそうです。念のため……。