さまざまな裏工作ののちに、一六三三年十二月、ローバルドモンがとつぜん国王の全権委任状をたずさえてルーダンに現れました。国王の絶対権力をバックにした彼の登場で、グランディエの運命も決まりました。もうあがいても無駄だったのです。
ローバルドモンはただちにグランディエを捕え、自宅を捜査して書類を押収しました。もっとも危険文書のたぐいは何もこれといって見つかりませんでしたが。
逮捕に憤慨したグランディエの親族が告訴しましたが、ローバルドモンはそんなもの問題にもしませんでした。今度こそ、グランディエの敵たちにチャンスが巡ってきたのです。
獲物に殺到したのは、グランディエに妻や娘を誘惑され、恨み骨髄に達しているルーダンの名士たちだけではありません。事件に加わって一旗あげようとする野心家たちが、このときとばかりフランスから押しかけてきたのです。
美男司祭グランディエの女遊びからはじまった事件は、いまや権力闘争や教会内の派閥争いにまで発展し、ますます激しくなって全フランスを焼きつくさんばかりでした。
修道女たちの悪魔つきもひどくなるばかりで、悪魔祓い僧が次々に卑猥《ひわい》なイメージをかき立てると、修道女たちはこれに応じて陶酔をたかぶらせ、まるで悪魔にあやつられるサバトの魔女のような反応を見せるのでした。
修道女たちはアゴの骨がヘシ折れたように、恐ろしい勢いで頭を胸や背中にガクガク打ちつけました。肩のつけ根や手首のところで両腕をひねり曲げたり、腹ばいになったまま掌《てのひら》を足裏にぴったりくっつけたりしました。
顔はすさまじい形相に変わり、眼はまばたきもせず見開かれたまま、真っ黒に膨《ふく》れあがったブツブツだらけの舌を口からぬっと突きだすと、二つにヘシ折れんばかりに体を後ろにのけぞらせたまま、恐ろしい速さで長いあいだ走りまわるのです。ときには耳をつんざくような叫びをあげたり、目をそむけたくなるような淫《みだ》らな身ぶりをして見せました。
そしてこれでも足りず、悪魔祓い僧はごていねいにも、素人くさい手品まで演じてみせようとしたのです。
ある日、こんな布告が貼《は》りだされました。「明日の悪魔祓いのとき、悪魔がローバルドモン氏の頭から帽子をさらって、人々が聖歌を歌っているあいだ、空中に漂わせておくだろう」というのです。
いよいよ当日になって、見物人たちは「奇蹟《きせき》」がおこるのを今や遅しと待ち受けました。が、期待は裏切られました。ヘンに思った市民らが、教会の屋根裏に忍びこんだ一人の若者を捕まえたからです。彼は時がきたら天井の穴から糸で垂らした釣針をつかって、帽子を空中に漂わせようと、待ちかまえていたのでした。ガッカリした見物人たちは、ブーブー言いながら立ち去っていきました。