妻の浮気の噂を耳にして、フィリッポ伯の心は怒りで煮えくりかえりました。どんな甘い夫だって浮気のことになれば、話は別。いや、一見優しげに見える男ほど、いったん裏切られると、別人のように残酷に依怙地《いこじ》になるという事実を、イザベッタは知らなかったんでしょうネ。愛情|云々《うんぬん》もあるが、男のメンツってものがある。それを傷つけられた男がどんなになるか……。それが分からなかったところがコワイ。
ちきしょう、なんとか浮気の相手を突きとめてやる、とフィリッポ伯はふるいたちます。が、始終家を留守にしている彼には、浮気現場をつかまえる機会はない。といってカッカしてやたら妻を責め立てては、かえってあぶ蜂《はち》とらずになってしまうだけ……。
そこで何くわぬ顔をしながら、フィリッポ伯はなにかいい案はないかと考えつづけました。そんな夫をイザベッタはまだ気づかないのかと見くびって、そこがフィリッポ伯の思うつぼなのですが、だんだん気を許して大胆になり、夫が家にいるときでも愛人と手紙をやりとりしたり、外でのデートを重ねます。そんなこんなで、あるとき伯は、妻の相手が最近彼の部下になったリッツォという男だと、とうとう突きとめてしまったのです。
ある日突然、伯は急用ができて明日から十日間ほどフィレンツェに行ってくると言い出しました。ついでにイザベッタの実家によって生まれたばかりの赤ん坊を見せてくると言うので、イザベッタは赤ん坊の乳母や女中たちにも旅の支度をさせました。城に残るのは下働きの召使のほかは、留守を守る三人の兵士だけになりました。その三人のひとりに、伯はさりげなくリッツォを選んでおいたのです。イザベッタはこれからの十日間、好きなだけ羽をのばして愛人とイイコトできると思うと大喜び。つい期待に胸はワクワクしてきます……。
夫の一行が出発したあと、イザベッタはさっそく女中に命じて、三人の兵士たちに沢山の葡萄酒《ぶどうしゆ》と御馳走《ごちそう》を運ばせます。伯爵夫人からのオゴリだと聞いて、兵士たちは大喜び。あらかじめ事情を知っているリッツォをのぞいて二人の兵士たちは、主人が留守なことも手伝って、思いっきり飲んだり食ったり、すっかり酔いつぶれてしまいます。彼らが寝てしまったのを見届けて、リッツォはあらかじめの手はず通りそっと伯爵夫人の寝室へむかう。「ああ、やっと来たのね!」待ちかねていた夫人はそう叫んで、青年の若々しい肉体のなかに身を投げます。さあ、あとは思いっきり、わたしを狂わせてちょうだい!
一方、フィリッポ伯のほうはフィレンツェに出発するどころか、邸《やしき》の近くに部下たちをひそませ、ひそかに夜がふけるのを待っていました。夜中ちかくになって少数の兵だけをつれ、城門の裏にまわります。兵士たちが二人がかりで城壁の大きい石を取りのぞくと、なんとその向うには、城内への抜け道がつづいていました。
不気味な沈黙のなかで、一行は足音をしのばせて細い抜道をぬけ、ひんやりした石の廊下を通って、イザベッタの寝室にむかいました。
ちきしょう、なんとか浮気の相手を突きとめてやる、とフィリッポ伯はふるいたちます。が、始終家を留守にしている彼には、浮気現場をつかまえる機会はない。といってカッカしてやたら妻を責め立てては、かえってあぶ蜂《はち》とらずになってしまうだけ……。
そこで何くわぬ顔をしながら、フィリッポ伯はなにかいい案はないかと考えつづけました。そんな夫をイザベッタはまだ気づかないのかと見くびって、そこがフィリッポ伯の思うつぼなのですが、だんだん気を許して大胆になり、夫が家にいるときでも愛人と手紙をやりとりしたり、外でのデートを重ねます。そんなこんなで、あるとき伯は、妻の相手が最近彼の部下になったリッツォという男だと、とうとう突きとめてしまったのです。
ある日突然、伯は急用ができて明日から十日間ほどフィレンツェに行ってくると言い出しました。ついでにイザベッタの実家によって生まれたばかりの赤ん坊を見せてくると言うので、イザベッタは赤ん坊の乳母や女中たちにも旅の支度をさせました。城に残るのは下働きの召使のほかは、留守を守る三人の兵士だけになりました。その三人のひとりに、伯はさりげなくリッツォを選んでおいたのです。イザベッタはこれからの十日間、好きなだけ羽をのばして愛人とイイコトできると思うと大喜び。つい期待に胸はワクワクしてきます……。
夫の一行が出発したあと、イザベッタはさっそく女中に命じて、三人の兵士たちに沢山の葡萄酒《ぶどうしゆ》と御馳走《ごちそう》を運ばせます。伯爵夫人からのオゴリだと聞いて、兵士たちは大喜び。あらかじめ事情を知っているリッツォをのぞいて二人の兵士たちは、主人が留守なことも手伝って、思いっきり飲んだり食ったり、すっかり酔いつぶれてしまいます。彼らが寝てしまったのを見届けて、リッツォはあらかじめの手はず通りそっと伯爵夫人の寝室へむかう。「ああ、やっと来たのね!」待ちかねていた夫人はそう叫んで、青年の若々しい肉体のなかに身を投げます。さあ、あとは思いっきり、わたしを狂わせてちょうだい!
一方、フィリッポ伯のほうはフィレンツェに出発するどころか、邸《やしき》の近くに部下たちをひそませ、ひそかに夜がふけるのを待っていました。夜中ちかくになって少数の兵だけをつれ、城門の裏にまわります。兵士たちが二人がかりで城壁の大きい石を取りのぞくと、なんとその向うには、城内への抜け道がつづいていました。
不気味な沈黙のなかで、一行は足音をしのばせて細い抜道をぬけ、ひんやりした石の廊下を通って、イザベッタの寝室にむかいました。