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黒魔術白魔術15

时间: 2020-07-21    进入日语论坛
核心提示:錬金術師フラメル一四世紀フランスの錬金術師ニコラ・フラメルは,『アブラハムの書』という古代錬金術の書物から黄金製造法を知
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錬金術師フラメル

一四世紀フランスの錬金術師ニコラ・フラメルは,『アブラハムの書』という古代錬金術の書物から黄金製造法を知り、大量の黄金をみずから製造したことで有名だ。
一四世紀後半のパリ、エクリヴァン街のサン・ジャック・ラ・ブーシュリー教会の隣に、一人の男がひっそりと住んでいた。ニコラ・フラメルという書店主である。一三三〇年にポントワーズに生まれたフラメルは、十三歳のときパリに出た。挿絵画家のもとで何年か就業したあと、書籍販売業をいとなむようになった。
一三五七年のある夜、フラメルは奇妙な夢を見た。夢に天使があらわれて、一冊の本を差し出してこう言ったのだ。
「この本をみよ。これはお前にも、他の誰にも理解することの出来ない本だ。しかしお前はいつの日か、他の誰にも分からない秘密をここから発見するだろう」
数日後、一人の男がふらりとフラメルの店を訪れた。アラブ人のような黒い肌をした、みすぼらしい風采《ふうさい》の男だった。彼はフラメルにこのあいだ夢で見たのと瓜二つの本を見せて、金二フローリンで売り渡したのだ。
それは古い分厚い手稿本で、何かの若木の樹皮に書かれていた。フラメルには全く理解できない、古代言語がぎっしり書かれていて、どのページも錬金術らしい奇妙な記号や用語でいっぱいだった。
フラメルはその本を熱心にめくってみたが、読めば読むほど、何が書いてあるのかさっぱり分からなかった。最初のページには金文字のラテン語の序文があり、この本はユダヤ人の始祖アブラハムによって書かれたもので、�屠者と公証人をのぞいて�、これを読んだすべての者は呪《のろ》われるだろうと書かれていた。
つづいて著者は、いわゆる金属変成の秘密を明かしている。ただしその秘密を解くためのキーポイントはどこにも記されておらず、そのかわり巧みに描かれた寓意画がいくつか出ているだけだ。
第一図では、足に羽根のはえた少年が、空中を飛んでいる老人にいまにも大ガマで足を切られようとしている。第二図では、山の頂に金色の葉に赤や白の花の咲いた木が立っており、まわりを竜やグリフィンが翼をひろげて飛び回っている。
第三図は、バラの花束に泉が水を噴出している絵。第四図は小さな赤ん坊を殺そうとしている一人の王の絵だ。これはヘロデ王に虐殺される赤ん坊を描いているのだという。
とにかく、わけの分からない絵ばかりだった。もっともこれらの絵はもともと人に理解させるために描かれたのではなく、解読のカギを持っている人間だけに分かる暗号なのだ。
では、そのキーポイントとやらは、いったい誰に聞けば教えてくれるだろう。興味をおぼえたフラメルは、パリ中の学者たちをたずねて、それとなく手稿本の内容をたずねてみたが、役に立ちそうな助言は得られなかった。
そうこうするうちに、ニコラ・フラメルはペルネルという女性と結婚した。ペルネルは夫の錬金術への関心をばかにするどころか、自分もすすんでそれに協力しようとした。後年フラメルが錬金術の実験を行なうときも、自分もそれに加わって助手をつとめたという。
こうして二十一年の月日がたったが、書物の解読は依然すすまなかった。いかに辛抱強いフラメルも、ついくじけそうになったが、ある日彼はふと、あることを思いついた。この本がユダヤの始祖アブラハムの書いたものなのなら、もしかしたらユダヤ人なら、これが読めるかも知れない。
そこでフラメルは一三七九年、妻ペルネルに留守をまかせて、スペインのサンチアゴ・デ・コンポステラ寺院への巡礼の旅に出た。当時のスペインには、ユダヤ人学者が大勢住んでいた。巡礼というのは表むきの口実で、じつは書物の謎《なぞ》をとく手がかりを、ユダヤ人学者たちのあいだに求めようとしたのだ。
スペインに着いたフラメルは、ユダヤ教の礼拝堂を足しげく訪れて、そこに群れつどうユダヤ人たちにかたっぱしから例の書物のことを聞いてまわったが、なんの効果も得られなかった。
がっかりしたフラメルは帰途についたが、ところが帰りに立ち寄ったレオンの町で、一人の重要な人物に出会うのだ。マイトス・カンチェスという、改宗したユダヤ人のカバラ(ユダヤ密教)学者である。カンチェスは医師でもあり、貧民を無料で治療して、レオンでは尊敬されていた。
フラメルが例の書物のなかから絵図の写しを見せると、カンチェスは急に目を輝かせて身をのりだしてきた。
「それはラビ、アブラハムの『アッシュ・メザレフ』に違いありません。カバリストたちが、もう数百年前に失われてしまったと思いこんでいるものです。第四の図には、無垢な赤ん坊の殺害が描かれていますね。それは新たに生成するために破壊されねばならない、金属変成の象徴なのです。では、その本をお持ちなのですか? ぜひ見せて下さい」
カンチェスはその書物を自分の目で見るため、フラメルについてパリまで行くことになった。レオンからパリへの道中のあいだカンチェスは錬金術について自分が知っているかぎりの知識をフラメルにさずけた。
古代エジプトの知の神、ヘルメス・トリスメギストスから始まるその知識は、その後アラブ人とユダヤ人を通じて西方にひろがったが、やがて野蛮人どもが世界を制覇するにいたって、秘密の知は忘れられ、隠されてしまった。
フラメルが持っている書物は、もしかしたら宗教に関心が深かったローマの背教徒ユリアヌス帝を通じて、パリにもたらされたものかも知れないという。
ところがカンチェスは、高齢のせいか途中のオルレアンで病気になってしまい、旅館の一室で床についたまま、あえなく世を去ってしまった。死の直前に、カンチェスはフラメルに、卑金属を金や銀に変えることができる「賢者の石」の秘密をおしえたという。
こうして「賢者の石」の秘密は、カンチェスからフラメルに受けつがれたのだ。そんな一三八二年初頭のある日、フラメルの店のドアを叩く者がある。開けてみると、隣家のユダヤ人シモンだった。
当時、セーヌ河の水にユダヤ人が毒を投げ入れたという噂がたち、大量のユダヤ人が投獄されたり殺されたりする事件が起きてきた。危険が迫るのを感じたシモンは、パリからドイツに移住しようとしていた。
「でも、一つだけ心残りがあるのです。これまで死ぬ思いで貯めてきた財産です。憎い迫害者たちには死んでも渡したくはない。だが私には跡継ぎがないので、あなたにこれを預かってもらうことにしました。どうぞこの袋をおとり下さい。私がいつかここにもどってきたら返していただくが、私の身に何かあったら、あなたのものにして下さい。あなたがこれを悪いことに使ったりなさらないことは、よく分かっています」
これと前後して、フラメルはついに「賢者の石」造出に成功したらしい。一三八二年十月十七日、月曜日正午ごろ、妻ペルネルの前で、ついにひとかたまりの銀を火のなかから取り出して見せたのだ。
半ポンドほどの水銀を純銀に変える実験だったが、出来上がった銀は、銀鉱からとれた銀よりずっと良質だった。さらにそれから三カ月後に、今度は半ポンドほどの水銀を、純金に変えることに成功した。これも普通の金よりずっと良質で柔らかいものだったという。
フラメルが実験に成功しているあいだも、ユダヤ人迫害はつづいており、ユダヤ人はつぎつぎと亡命したり殺されたりしていた。そしてそのたびに、親ユダヤとして名高かったフラメルのもとに、つぎつぎとユダヤ人たちの財宝や遺産が持ち込まれたらしいのだ。
そのせいかどうか、このころからフラメル夫妻は、パリ市内の数軒の教会に寄付を行なっている。一三八九年にはイノサン墓地の納骨堂にアーケードを寄進し、聖ジャック・ラーブーシュリーの表玄関の装飾を寄進した。モンモランシー街五一番地に、建物を新築したのもこのころである。
急速にフラメル家が裕福になったのは確かだが、それが錬金術のおかげだったのか、それとも亡命ユダヤ人たちから譲られた遺産のおかげだったのかは分からない。長年にわたってフラメルが営んできた書店の仕事も、地味ながらうまくいっていたし、妻のペルネルが前夫が残した遺産から、かなりの額の持参金を持ってきたという説もある。
ニコラ・フラメルは一四一七年、九十歳近くで世をさり、遺骸《いがい》は聖ジャック教会の聖クレメンス礼拝堂に葬られた。彼の墓石は今日クリュニイ博物館に保存されている。
妻ペルネルはすでに一三九七年に死んでいたので、遺産は数軒の教会に寄進され、遺書は甥《おい》の一人に継承された。何代かあとに、フラメルの子孫であるデュ・ペランという医師が、ルイ一三世のために金粉をつくったという話が伝えられている。フラメル家に代々伝わる錬金術の手法を用いてのことなのだろうか?
ニコラ・フラメルの死からほぼ三世紀半たった一七五二年、フラメルの旧宅が地下から最上階まで徹底的に探索された。しかしどこからも錬金術の極意を記したメモも古文書も出てはこなかった。
ただこのとき部屋の片隅に何の変哲もない小さなビンが置かれていたが、誰もこれに目をとめる者はいなかった。あまりにもありふれた小ビンだったからだ。
捜査の一行が引き上げたあと、一人の女性がそのビンに目をとめ、何気なく自宅に持ち帰った。なかに何か分からない液体が入っていたが、女性はそれをさっさと台所に流して、ビンを水洗いしてしまった。
こうしてビンのなかの「液体」は、永遠に失われてしまったのだが、もしかして、本当にもしかしてだが、この「液体」こそが、錬金術の秘薬だったのだとしたら、どうなのだろうか?
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