一六世紀ハンガリーの伯爵夫人、エリザベート・バートリは血のお風呂《ふろ》を何より好み、つぎつぎと若い娘を近くの村から誘拐させてきた。彼女の犠牲になった娘の数は、実に六〇〇人にのぼるという。
エリザベートが�血のお風呂�に夢中になったきっかけは、こうである。自分の美貌《びぼう》には絶対の自信があった彼女だが、つづけて四人の子を生むと、さすがに肌にシミやシワが増えてきた。あわてて妖術使《ようじゆつつか》いにもらった薬草などもためしてみたが、たいした効き目はない。
ある日、鏡のまえで新米の侍女に髪をすかせていたエリザベートは、侍女の手つきのあまりの不器用さに思わずカッとして手をふりあげた。侍女の頬《ほお》を打ったとき、はめていた指輪がその頬をかすって、一滴の血がエリザベートの手に飛び散った。
気のせいか、血のついたところが、ほかの部分よりつるつるしてきたような気がする。そうだ、これだ。妖術使いさえ知らなかった美容法がここにある。若い娘の血、それをぬぐいさったあとの、つるつるした肌!
ワラにもすがりたい思いだったエリザベートは、それに飛びついた。大急ぎで彼女の部屋にたらいが運ばれ、若い侍女が後ろ手に縛られて引き立てられてきた。
娘は真っ裸にむかれ、無理やり、たらいのなかに追いたてられる。下男が娘の腕を縄できつく縛り、女中が娘の全身を鞭《むち》で打ちまくり、もう一人の女中が、カミソリで娘の身体《からだ》のあちこちに切り傷をつける。
腕を縛った縄が止血の役目をして、たらいのなかでのたうちまわる娘の全身から、血がシャワーのように飛び散るのだ。血が最後まで抜かれ、娘が苦悶《くもん》しながら息たえると、下男がその死体を毛布にくるんでさっさと運び去る。
そして裸になったエリザベートは、たらいのなかに足を踏み入れ、そこにたまった娘の血を、喜びの声をあげながら、てのひらですくっては、全身に塗りたくるというわけである。