またあるときは、一人の侍女が、外出から帰ったエリザベートの靴を脱がせようとして、慌ててエリザベートのくるぶしの皮を剥《は》いでしまった。
カッとしたエリザベートが、娘の顔を力いっぱい打ちすえたので、娘の唇から血がほとばしった。娘はキャッと叫んで後ろに飛びすさり、何が起こったのか分からないかのように、ぼんやりと女主人をみあげた。
エリザベートは苛立《いらだ》って立ち上がり、お気に入りの下男を呼ぶ。下男は彼女に命じられ、赤くなったおきの上に、焼きごてをのせて運んでくる。
「わたしがこの手でやるから、お前は娘をつかまえていておくれ」
エリザベートが下男の耳もとでささやくと、下男は娘につかつかと近より、その腕を後ろにねじりあげて押さえつけた。そしてエリザベートが娘に近づき、そのスカートをやおらまくり上げる。
「このエリザベート・バートリを傷つけたら、どんな目にあうかとっぷり教えてやる」
暴れくるう娘の口を下男が押さえ、もう片方の手が頬《ほお》を平手打ちにする。
やおらエリザベートが娘の素足に、最高温度に熱した焼きごてを押しつけると、ジュッという音とともに、肉の焼ける臭《にお》いが部屋中にひろがり、娘のからだはフライパンのうえのエビのように大きく飛びはねると、やがて動かなくなった。
すでに娘が気絶したのもかまわず、エリザベートはそのこちこちに干からびて褐色に変わった足裏に、なおも焼きごてを押しつけつづけた。
「ほら、お前にもきれいな靴を作ってやったわ。真っ赤な底までついているじゃないの」
エリザベートはそう言いながら、目をぎらぎら輝かせ、婉然《えんぜん》とそばの下男に笑いかけるのだった。