またあるときは、一人の女中が梨《なし》を一個盗もうとしているところを見つかった。その日、城の中庭を、奇妙な行列が進んでいった。厳しい表情で唇を固く噛《か》みしめたエリザベート、真っ裸で後ろ手に縛りあげられ、肩をこづかれ無理やり歩かされる若い娘。そしてその縄のはしを持った下男……。
一本の樅《もみ》の大木のまえで、とつぜんエリザベートは立ち止まると、ここに娘を縛りつけるよう、下男に命じた。
「しっかりお縛り。あとでゆるむようなことのないように」
逃れようともがく娘の腕に、たちまち縄は幾重にも食いこみ、下男が縄を引くと、両足がふわりと宙に浮いた。腕と脚にまわされた縄に、全体重が支えられることになり、口で言えないほどの苦しみだった。食いこむ縄に締めあげられて、四肢は彎曲《わんきよく》し、全身がコチコチに硬直した。
それがすむと下男は姿を消し、やがて蜂蜜《はちみつ》の入った壷《つぼ》を抱えてもどってきた。エリザベートは衣服の袖《そで》をまくると、指で蜂蜜をすくいあげ、娘のからだに塗りはじめる。
エリザベートの指の下で、蜂蜜はくまなく押し広げられ、太陽の熱と娘の体温で、たちまち溶けていった。首筋、乳房、下腹、そして手足と、全身くまなく塗りおわると、手を洗いながら、エリザベートは満足げに微笑した。
翌日、久しぶりに戦場から帰ってきた夫を、エリザベートはその樅《もみ》の木の下にさそった。日中のすさまじい酷暑で、娘はほとんど気を失っていた。首はがっくり肩にのめりこみ、太陽に焼かれて赤らんだ肉体の一面を、蟻《あり》やハエが黒々ととぐろを巻いていた。
「このままにしておいては死んでしまう、もう罰は十分ではないか」という夫に、エリザベートは平然と、城中の召使をみな呼びあつめ、見せしめとしてこの木の周囲を行進させようと提案した。
ただちに集められた召使たちが、目をふせて黙々と木の周囲を行進する足音が、闇《やみ》のなかに不気味に響きわたった。それがすんだあと、ようやくエリザベートは、半死半生になった娘を解放してやったのである。