さらに、こんな変わった拷問もある。ある冬の日のこと、エリザベートは散策の途中、湖のほとりで急に馬車をとめさせ、隣にのせていた召使の娘をおろした。
従者たちが松明《たいまつ》をかかげるなかで、娘はあっというまに服を脱がされる。凍《い》てつく風に吹かれて全身は紫色になり、激しい悪寒のなかで娘は泣きさけぶが、両側から男たちに押さえつけられて、身動きすることもできない。
そのあいだに、下男がつるはしで叩《たた》いて湖の氷をこわし、その奥に凍らないまま残っている水を、手おけで汲《く》みだし、ゆっくり娘の体にそそぎはじめたのだ。
凍てついた水の焼けるような感触に、娘はのたうち、松明の火に向かって力なく動こうとした。しかし零下何十度の気温のなかで、水はたちまち肌のうえで凍りつき、第二、第三の水がつぎつぎと氷の層を厚くしていった。こうして娘は、半透明の氷の像に変身したのである。
作業が終わると、エリザベートは馬車から降りて、豪奢《ごうしや》な毛皮にくるまって娘に近づいた。この氷の像に、まだかすかに命が残っているのに気づくと、彼女はカラカラと愉快そうに笑いながら、ゆっくりと像のまわりを一巡するのだった。
「これを持って帰って、部屋に飾っておけないなんて、本当に残念だわ……」
かくて氷の像はつもった雪のうえに打ち捨てられ、馬車は何事もなかったように、また出発していったのである。