ある日、城に着いたばかりの侍女たちを集めて、豪華な宴《うたげ》が催されたことがある。農家の娘たちは垢《あか》だらけの体を洗われ、髪をとかされ、きれいなドレスを着せられた。大広間に通された娘たちは、びっくりして息をのんだ。火のともされた燭台《しよくだい》、銀食器やガラス器がずらりと並ぶテーブル。豪奢《ごうしや》な錦《にしき》のタペストリー……。
何もかも、初めてみるものばかりだ。それにしても、なんでただの召使である自分たちがこんなところに招かれたのだろう?
おっかなびっくり席につき、ひそひそ話をしていると、いよいよ女主人エリザベートが、豪奢なビロードのドレスで着飾ってあらわれた。
こうして宴ははじまり、つぎつぎと豪華な御馳走《ごちそう》が運ばれてきた。娘たちは気まずい沈黙のなかで、黙々と不器用な手つきでナイフやフォークをあやつった。
そのときドアが開き、二人の下男が入ってきた。二人は手にしたナイフで、テーブルのうえのローソクの芯《しん》を切りはじめた。これも何かの趣向なのかと思って、娘たちは黙って見ていた。
すべてのロウソクの芯が切られると、部屋は真っ暗になり、しんとした静けさにつつまれた。つぎの瞬間、部屋のどこかでギャーッという叫びがあがる。うろたえた娘たちはガタガタと椅子《いす》を引いて立ちあがり、にわかに部屋はざわめきたった。
「席をはなれてはいけない。自分の席をはなれてはいけない!」
下男たちはそう叱《しか》りつけながら、手にしたナイフで手早く娘たちの首をはねていった。彼らがときどき娘たちの首を手さぐりで探しては、まちがって相手の手にふれ、クスッと笑いをもらすのが聞こえた。そしてそれにつづいて、身も凍るような叫びがあがる。
この瞬間を永遠のものにするために、エリザベートは作業をあまり早く進めないようにと彼らに命じた。
闇《やみ》のなかで、彼女は感じていた。手のなかに探りあてる娘のかわいらしい首。それにナイフで切りこむときの確かな手ごたえ。血が一挙に吹きだし、娘の首が胴からはなれて、床にころげ落ちるときの、あの解放感……。
そのとき世界は、エリザベートの手のなかにあるのだ。
すべてが終わったとき、部屋は再び果てしない静けさに包まれた。燭台に火がともされ、血まみれの首や、ドレスをつけた首のない胴体のころがっているなかで、エリザベートは突如ものすごい食欲を発揮して、その夜の御馳走をたいらげたのだった。