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美しき拷問の本26

时间: 2020-07-24    进入日语论坛
核心提示:ジェーン・グレイの処刑ロンドン塔のなかでも、とくに血塗られた歴史にみちているのは、やはり一四世紀に建てられたビーチャム塔
(单词翻译:双击或拖选)
ジェーン・グレイの処刑

ロンドン塔のなかでも、とくに血塗られた歴史にみちているのは、やはり一四世紀に建てられたビーチャム塔であろう。夏目漱石の小説『倫敦塔《ロンドンとう》』には、こうある。
「なんだか壁が湿っぽい。指先でなでてみると、ゆらりと露にすべる。指先を見ると真っ赤だ。壁の隅からぽたりぽたりと露が垂れた。床のうえを見るとその滴りの痕《あと》が鮮やかなくれないの紋を不規則に連ねる」
�鮮やかなくれないの紋�というのは、塔に幽閉された罪人たちが、この世の思い出に書き残した遺書である。湿った石壁に囲まれた牢内《ろうない》で、人々は嘆き悲しみつつも、せめて生きたなごりにと、辞世の文字を壁にきざんだのだ。
それら無数の文字のなかに、かすかに「ジェーン」という名前を読むことができる。彼女こそは、わずか九日間だけ女王の座につきながら、一八歳の若さで哀れにも処刑台の露と消えた薄幸の女性である。
その一五五四年二月一二日、処刑場に引きだされたジェーン・グレイは、雪のように真っ白な服を着ていた。そしてその純白の服と同じように、彼女には何の罪もなかったのである。
しかしジェーンは取り乱すこともなく、静かに首切り台に手をついて頭をのせた。つぎの瞬間、大斧《おおおの》が無情にも彼女にむかって降り下ろされ、首がにぶい音をたてて地面にころがった……。
今も命日になると、真っ白な服を着たジェーンの亡霊があらわれると言われる。最近では、ジェーンの四〇三年目の命日にあたる一九五七年二月一二日に、彼女の亡霊を見たという人がいる。
冷え込みの厳しい夜だった。夜中三時ごろ、何か物音がしたので、守衛が外に出て、塔のうえを見あげると、白い影のようなものが見えた。とっさにジェーンの亡霊だと思った守衛は、ガタガタふるえながら仲間の守衛を呼んだ。急いで駆けつけてきた仲間も、たしかにそのときジェーンの亡霊を見たという。
 一五五三年当時、一五歳の英国国王エドワードは体が弱く、結婚して子をもうけるのは無理だろうと言われていた。その場合、彼の死後は義姉メアリが女王として即位することになる。しかし一方で、女王即位を敬遠する空気も強かった。
そこに目をつけたのが、野心的なノーサンバーランド公ジョン・ダドリーである。彼はメアリから王位を横取りするため、親しいサフォーク公ヘンリー・グレイの娘、ジェーンに目をつけた。
当時ジェーンは一五歳だったが、きわだった美貌《びぼう》のうえに、ギリシア、ラテン、ヘブライ、フランス、イタリア語を話せ、イギリス一教養ある女性という評判だった。そのうえ母は、ヘンリー七世の次女と二度目の夫のあいだの娘である。つまり彼女は、ヘンリー七世の曾孫《ひまご》にあたるのだ。
女王即位を邪魔するのに女性を使うのはおかしいようだが、ダドリーの計画は、自分の四男ギルフォードとジェーンを結婚させ、彼女が生む男子に王位を継がせることだった。そこで、それまでのつなぎ期間、ジェーンを女王に即位させようとしたのだ。彼は計画をサフォーク公に打ち明け、まず息子ギルフォードとジェーンを結婚させた。
クーデターの機会を虎視眈々《こしたんたん》とねらうダドリーは、エドワード国王の死がせまった一五五三年六月末、病床をたずねて女王メアリの即位の危険を切々と訴えて、ジェーンの男子に王位を継承するという勅状を、まんまと奪いとったのだ。
しかし陰謀を察したノーフォーク公は、メアリを自分の領地にかくまって、ダドリーの出方を待った。七月六日、ついにエドワード国王は世を去ったが、その死は一〇日まで発表されなかった。エドワードの死、メアリ逮捕、ジェーンの王位継承というダドリーの計画が、メアリ避難で狂ってしまったのだろう。
それでもダドリーは九日、キングズ・リンの居城にジェーンを招き、故エドワード国王の遺言で、彼女が王位継承者に指定されたことを伝えた。はじめて自分の運命を知ったジェーンは、ショックで気を失ったという。しかし彼女の気持ちとは無関係に、いよいよ翌日エドワード王の死とジェーンの女王即位が同時に発表された。
だが、陰謀計画を前もって打ち明けられていたのは、ジェーンの父サフォーク公とダドリーの息子たちだけ。有力貴族たちへの根まわしを欠いた、無謀なクーデターである。たちまち周囲の反発を食らい、これまでメアリ反対派だった貴族さえ敵にまわすことになり、ジェーン・グレイの王位は九日間で終わってしまった。
ジョン・ダドリー、ジェーン、その夫ギルフォード、ギルフォードの兄や弟など、ダドリー一家は逮捕され、首謀者のジョン・ダドリーは八月二一日に処刑されてしまった。
半年後の翌二月一九日には、ジェーンと夫のギルフォードへの判決も下り、夫はタワー・ヒルで、ジェーンはタワー・グリーンで、それぞれ処刑されることになった。
自分は何の野心もないまま、周囲の野望の道具にされた哀れなジェーンだが、誰をうらむこともなく、しずかに刑を受けたという。
幸薄い「九日間の女王」、ジェーン・グレイの物語である。
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