執行吏への偏見は、その家族だけでなく、彼の使っていたすべての所有物にもおよんだ。彼が店で払うお金でさえ、フッと息をふきかけるか、十字を切るかしてからしか、店の者は手を出そうとしない。
たとえば絞首台が古くなって修復することになったときも、やたら込み入った行事が必要になる。まず、その町の職人が総動員され、それに兵隊と楽隊が集められ、えらい役人を先頭に、鳴り物入りで刑場に行進していく。そして職人たちが、絞首台に触れたことでこうむった汚れを、きれいに祓《はら》われたと宣告されて、はじめて全員が仕事を始めることができるのだ。
このように絞首台にふれることが、悪魔にふれるのと同じように、不吉なこととされていたのに、一方では、絞首台の部分品が、一種のお守りとしてあがめられていた。まあ、いわば�絞首刑グッズ�である。
たとえば死刑囚の首を絞めた縄の切れはしとか、絞首台を作るときに出た鉋屑《かんなくず》とか、滑車の部品、首切り刀、はては刑場の下にころがっている、刑死者のものとおぼしき髪の毛や骨片なども、とっておきのお守りになった。
ある日ブレスラウで昔の刑場後を整地していたとき、人骨がたくさん見つかり、人夫たちがそれを売ってボロもうけしたという話がある。しかし現代ではもう、こんな珍品を手に入れる機会はほとんどないため、小牛の骨を刑死者の骨だといつわって売られることもあるのだそうだ。