古代ヨーロッパでは、さかさ吊りという刑が、とくにユダヤ人相手におこなわれた。さかさ吊りにした死刑囚の左右に、生きている二匹の犬を、これも後ろ足を縛って、さかさに吊るすのだ。
あまりの苦しさに、二匹の犬が死に物狂いで、そばの死刑囚に噛《か》みついたり引っかいたりするものだから、ただでさえ苦しい死刑囚の受難は倍加された。にもかかわらず、なかにはこうして吊るされた死刑囚のほうが何日も死に切れないで、犬のほうが先に死んでしまったという記録もある。
ところで異端審問のとき用いられた拷問の一つに、吊るし刑がある。囚人を後ろ手に縛り、その縄を滑車にかけ、それを引っ張ってつるし上げる。これだけでも苦しいのに、それでもまだ白状しないと、今度はとつぜん縄をゆるめ、囚人の体を叩《たた》き落とす。その瞬間、体中の関節がひきつって、全身に電流が走ったような壮絶な痛みを感じるのだ。
このやり方のバリエーションに、�エストラパド(吊刑)�なる拷問がある。囚人を裸にして後ろ手に縛り、両足に計一〇〇キロ以上の重しを結びつけ、縄で吊るしあげる。そして何度もくりかえし、地面すれすれのところまで急激に叩き落とすのだ。むろん囚人の腕も脚も完全に脱臼《だつきゆう》し、全身がバラバラになってしまったような苦しみである。
もっと過激なバリエーションもある。ドイツのニュルンベルグでは、天井に固定した滑車に鉄のチェーンを通し、それで囚人を高く吊るしあげる。そして彼の両足にそれぞれ大きな重しをぶら下げるのだ。
チェーンを急にはなすと、囚人は叩き落とされたときのショックで、四肢が脱臼してしまう。同時にそのとき、滑車の歯車や鉄のチェーンが、囚人の背中に叩きつけられて肉に突き刺さる。これを何度もくりかえすと、囚人の体は見るも無残な血まみれの肉のかたまりに化してしまうのだ。
ローマでは、職人や労働者が、この吊るし刑を受けると、生きていく希望を失って自殺してしまうことが多かった。身体を悪くして、もう仕事に復帰することが出来なくなるからだ。