生き埋めは古代から中世にかけて、女の罪人に科せられた刑の一つ。世界最古の生き埋めの例は、古代ローマ時代にヴェスタの神の巫女《みこ》に科せられた生き埋めである。
当時、ヴェスタの神に仕える巫女は、三〇年間は性行為をつつしむという、きびしい純潔の誓いを強制される。この誓いにそむいた者は、生き埋めにされることになっていた。
街の東北門の近くに、小さな丘がある。そこに地下室が掘られて、梯子《はしご》で降りていくようになっている。真っ暗な地下室のなかには、ベッド、明かり、そしてわずかなパン、水、牛乳、油などが置かれている。少しのあいだでも、これで命をつなぐようにということなのだろうか。
誓いにそむいた巫女は籠《かご》に閉じこめられ、籠の周囲に厚いおおいをかけ、革帯をぐるぐる巻かれて、広場をかつがれていく。途中でこれに出会った者は黙って道をゆずり、深い悲しみにうたれながら、黙々とあとをつけていく。
その日は、町全体にとっての忌日だ。丘のうえでは、大勢の見物人が籠の到着を今か今かと待っている。ようやく籠が地下室の前につくと、祭司の祈りがはじまり、執行吏が籠のまわりの革帯をほどきはじめる。
やがて顔をベールでおおった巫女が籠から出され、死の地下室に梯子を伝って降りていくのだ。そのあいだは、祭司たちは顔をそむけて見ないようにしている。女が地下室におりたのを確かめてから、さっさと梯子をとりあげてしまう。そしてそのあとは、フタをして土をかけてしまうのだ……。
かくてこの世と永遠のお別れをした女は、真っ暗な地下室のなかで、何日間も、あるいは何週間も、孤独と恐怖のなかで生きのびることになる。ある意味では、ひと思いにバッサリやられるより、ずっと残酷な拷問かも……。
数週間後、執行吏たちがまた丘のうえにやってくる。その後の首尾をみとどけるため。土をのけ地下室のふたを開けて、女の生死をたしかめるためである。