一六世紀、オランダの異端者たちに対して行なわれた拷問で、「木馬」というのがある。木製のベッドのようなもので、なかが舟のようにくりぬかれている。その中央に棒が十文字にわたされている。下方のほうが心もち高くなっているため、舟底に罪人が横たえられると、両足が頭より持ちあがるようになっている。
こうして舟底に横たえられた罪人は、つぎに腕、腿《もも》、脚に細い縄を巻きつけられ、これをじわじわとネジで締めつけられる。それこそ気の狂いそうな痛み。縄はひしひしと手足の骨にまで食い込んでいき、しまいに外からは見えなくなってしまう。
これだけではない。さらに罪人は、口と鼻に薄い布をぴったりかぶせられる。やっと息ができる状態のところに、今度は高いところから、糸のようにつながった一条の水が、その布めがけて落ちてくる。
水力で、その薄い布が喉《のど》の奥にしずみこみ、完全に息がつけなくなってしまう。あとでこの布を喉から引きだすと、水と血でぐしょぐしょになっていて、まるで口のなかから臓物でも引き出したようだという。
異端審問には、俗にいう火責めも欠かせない。まず、罪人の足の裏にラードをたっぷり塗る。つぎに炭火のいっぱい入った大きな火鉢をもってきて、それを足の裏に近づける。あたかもステーキを焼くときのように、じりじりといぶり焼きされるというわけだ。いやはや、まったく……!
もう一つ、鍋《なべ》責めというのもある。犠牲者を台のうえに仰向けに縛りつけ、むきだしになった腹のうえに、二十日《はつか》ネズミを沢山はなし、裏返しにした大鍋でふさいでおく。つぎに大鍋のうえで火を燃やすと、ネズミどもは熱さで狂ったように暴れだし、しまいには罪人の腹を食いやぶって、内臓までもぐりこんでいくという具合である。
さらにドイツで用いられた拷問で、頭蓋骨《ずがいこつ》粉砕器なるものもある。鉄製の円錐形《えんすいけい》のかぶとのようなものを、罪人の頭にかぶせる。かぶとは両端の下の方で、鉄製の板につながっており、この鉄板のうえに顎《あご》をのせるようになっている。
これを捩子《ねじ》で締めると、鉄のかぶとと鉄板が、上から下から頭をじわじわと締めつけていく。やがては顎から歯がぬけ落ち、頭が割れそうにガンガン痛みだす。おまけに執行吏は、これを締めあげながら、頭頂をばしんと叩《たた》いたというからたまらない。それこそ体中にものすごい戦慄《せんりつ》が走り、しまいには頭蓋骨が本当に砕けてしまうという恐ろしいものだ。
ロンドン塔でもっぱら用いられた「無楽」という、頭蓋骨粉砕器ならぬ肉体圧搾器もあった。きゅうくつな暗い部屋で、そこに閉じこめられた囚人は、それこそ立つことも手足を伸ばすこともできず、ずーっと体を折り曲げていなければならない。そんな苦しい状態で、何日も過ごさねばならないのである。