イタリアはアッシジの小高い丘のうえに、「ロッカ・マジョーレの聖人拷問・殉教博物館」というものがある。入口を入ると、いきなり実物大のギロチンが、居丈高にそそり立っている。
もと牢獄だったという石造りの部屋が展示室になっており、たとえば罪人の肉をはぎとるペンチ、首をはねる斧、体に突き刺す太い錐、一面に釘の突き出た鉄の椅子、車輪やハシゴや鉄の処女など、それこそ考えられるかぎりの拷問用具が陳列されている。聖フランチェスコゆかりの聖地には、およそふさわしくない代物である。
さらに一室には、天井までとどきそうな高い木の十字架が備えられている。十字架といってもどこか普通と違うのは、一般の十字架をちょうど逆さまにした形で建てられているのだ。
この逆さ十字はイエスの直弟子の一人、聖ペテロの十字である。聖ペテロの生きたのは、あの暴君ネロの時代。当時、ネロによるキリスト教徒迫害は、ひたすらエスカレートするばかりだった。
あるキリスト教徒は獣の皮をかぶらされ、犬をけしかけられて噛み殺された。ある者は闘技場で野獣の餌がわりに与えられ、またある者は、全身にタールを塗られて柱に縛りつけられ、暗くなると灯火がわりに燃やされた。
イエスの死後、ペテロは迫害を避けてローマから逃れようとするが、途中のアッピア街道でイエスの幻を見て思いとどまり、すすんで殉教を願いでた。このときペテロは死刑執行人に、自分を逆さ十字にかけてくれと懇願する。主イエスと同じ形で磔刑にされるのは、あまりに恐れ多いからという理由である。