では、陳列された拷問用具のなかで、いくつかをご紹介しよう。まず、見るからに生々しい鉄製ペンチ。これはシシリーの敬虔なキリスト教徒、アガタに用いられたものである。シシリーのローマ総督は、美しいアガタに恋心を抱いたが、信心深いアガタは彼の誘いを拒否した。そんなときローマ本国からキリスト教弾圧の布告が下り、自分を拒んだアガタに復讐心を燃やしていた総督は、このときとばかり、アガタを捕らえて拷問にかけさせる。
アガタは燃える炎で全身をあぶられたあげく、特製のペンチで豊かな乳房を引きちぎられた。さらには真っ赤に燃える炭のうえを引きずりまわされ、ついに牢獄に向かう途中で息をひきとったという。
さて、もう一つの拷問用具は、人間をくくりつけて回転させる�車輪�である。紀元四世紀、アレクサンドリアの若き乙女カテリナは、その希有な美しさゆえに皇帝に結婚を迫られるが、敬虔なキリスト教徒だった彼女はそれをつれなく拒否する。
なんと生意気なと怒り狂った皇帝は、鉄の釘がびっしり突き出た車輪を用いて、カテリナを拷問にかけるように命じる。伝説では、危機一髪というときに、神のはなった稲妻が、車輪を打ち砕き、カテリナは拷問を免れたということになっているが、事実は確かめようがない。