北イタリアの名門スカラ家の当主、コングランデ・スカラが、一三二九年に突然世を去った。病死というが、じつはミラノ領主ヴィスコンティ家の刺客に殺されたのだという噂がたった。
コングランデの後を継いだ甥のマスチーノ二世は、伯父の不審な死を調査して、一族の一人で、ソアベ城(スカラ家の持ち城の一つ)の城主である、オルチノ・スカラが犯人らしいという情報を突き止めた。スカラ家の当主になろうと企んだオルチノが、ヴィスコンティ家と結託し、人を使ってコングランデを毒殺したのだという。
伯父の仇を討とうと決意したマスチーノは、ある日素知らぬ顔で、ソアベの城にオルチノを訪問した。オルチノのほうは本家の当主が来るというので、御馳走を用意して丁重にむかえた。ここを訪れるのは初めてのマスチーノは、オルチノの案内で丘のうえのソアベ城を見物してまわった。
そのときマスチーノは、城の主塔に仕掛けられた、世にも恐ろしい�殺人装置�を見て驚いた。なんと塔の内部は空洞になっていて、なかをのぞきこむと、内壁の下のほうに、鋭い刃物が刃を上向きに植えられているのだ。さらにもっと下の底のほうにも、同じような鋭い刃物が、やはり刃を上向きに植えられている。
つまり塔の上から落ちると、人の体はこれらの刃物にひっかかって、肉という肉をずたずたに切り裂かれてしまうのだ。あたかも獲物が落ちてくるのを、口を開けて待っているサメのようだ。事実、多くの人が塔から突き落とされ、この殺人装置の犠牲になったらしい。実際に使われた証拠に、塔内には悪臭がただよい,刃物に血痕のようなものが見える。
その夜、まんじりともせずに復讐の方法を考えつづけたマスチーノは、恐ろしいことを思いついた。オルチノを、例の処刑の塔のうえから突き落とすのだ……。
翌朝、マスチーノは素知らぬ顔で、もう一度、処刑の塔を見てみたいと、オルチノに所望した。お安いご用ですよとオルチノは快諾し、供もつれず彼を塔に案内した。マスチーノはいかにも興味をそそられたように、塔のなかをのぞきこみながら、
「あれ、あそこの刃物に引っ掛かっているのはなんだろう?」
と、何かを発見したように、背後のオルチノに聞いた。オルチノが怪訝そうに、「なんのことでしょう?」と手すりから身を乗り出すと、マスチーノはやにわに彼の脚をすくって、手すりの外に逆さに吊るしてしまったのである。
「お前はヴィスコンティと計って、伯父コングランデを殺したな。罰としてお前をここから落としてやる。あの世にいって伯父にわびるがいい」
吊るされたオルチノはがたがた震えて、「めっそうもない、私には身に覚えのないことです。どうか助けて下さい……」と懇願した。しかし、最後まで言い終わらないうちに、マスチーノは彼の足を握っていた手を離してしまった。
ギャーッという悲鳴を残して、オルチノの体は真っさかさまに落下していった。途中の刃物にぶつかった体は、肉を細切れにされて下に落ちていき、頭が下の刃物にぶつかって、串刺しになってしまったという。
この殺人装置はいまでも、処刑の塔の下で、不気味に光っている。実際に見学することが出来るので、旅の土産話がてら、あなたも見物してみてはいかがだろう?