一四世紀のアイルランド。アリス・カイトリーはこれまで、三度も夫に死に別れてきた。そしていま、四人目の夫も死を前にした危篤状態である。これまでの夫と同じように、今度の夫も指の爪がはがれ、髪の毛はごっそり抜け落ちるという、見るもおぞましい症状だった。
あまりのことに、召使や前の夫の子供たちが疑いだした。前の三人の夫も、そして今度の夫も、あまりに症状が似すぎている。子供たちはためらったあげく、ついに母の部屋を調べることを決意した。
母の留守をねらって部屋に入ってみると、厳重に鍵をかけた、何やら意味ありげな箱が見つかった。鍵をあけてみると、なかから出てきたのは薄気味悪い軟膏のようなものと、悪魔の名を彫りこんだ聖餐用パン……。
恐れおののいた子供たちの手で、それらの品々はさっそく、教会の司教のもとに届けられた。そして調査の結果、アリスが�悪魔の軟膏�を用いて、三人の夫をつぎつぎと殺したことが判明したのである。
実はアリスは、これまで定期的に魔女集会を開いていた。そして一一人の仲間たちと一緒に、動物の腸、毒草、虫、死人からとった髪と爪、生まれてすぐ死んだ赤ん坊の肉、打ち首になった囚人の頭蓋骨などを、一緒くたにぐつぐつ煮て、軟膏を作っていたのである。
司教はさっそく、アリスと一一人の仲間たちを逮捕するように指図した。しかし残念ながら、いかに躍起になっても、司教自身にアリスを逮捕する権限はない。ようやく教会裁判で裁く許可が下りたのはいいが、そのときはすでに、アリスは親しい貴族の手配で、イギリスに逃げてしまったあとだったという。