若さと美貌を保つために、七〇〇人の娘たちを殺してその血を浴びたといわれる、一六世紀ハンガリーの伯爵夫人エリザベート・バートリ。彼女が娘たちに加えた拷責はさまざまだが、そのなかでも壮絶なのが、つぎにご紹介する拷責だろう。
ある冬の日のこと、エリザベートは散策の途中、湖のほとりで急に馬車をとめさせ、隣にのせていた召使の娘をおろした。
従者たちが松明をかかげるなかで、娘はあっというまに服を脱がされる。凍てつく風に吹かれて全身は紫色になり、ガタガタ震えながら娘は泣きさけぶが、両側から男たちに押さえつけられて、身動きすることも出来ない。
そのあいだに、下男がつるはしで叩いて湖の氷をこわし、その奥に凍らないまま残っている水を、手おけで汲み出し、ゆっくり娘の体にそそぎはじめたのだ。
凍てついた水の灼《や》けるような感触に、娘はのたうち、松明の火にむかって力なく動こうとした。しかし零下何十度の気温のなかで、水はたちまち肌のうえで凍りつき、第二、第三の水がつぎつぎと氷の層を厚くしていった。こうして娘は半透明の氷の像に変身したのである。
作業が終わると、エリザベートは馬車から降りて、豪奢な毛皮にくるまって娘に近づいた。この氷の像に、まだかすかに命が残っているのに気づくと、彼女はからからと愉快そうに笑いながら、ゆっくりと像のまわりを一巡するのだった。
「これを持って帰って、部屋に飾っておけないなんて、本当に残念だわ……」
かくて氷の像は積もった雪のうえに打ち捨てられ、馬車は何事もなかったように、また出発していったのである。