ある貴族が、スペイン産の糞石を、フランス国王シャルル九世に贈った。王はその解毒の効果を、生きている人間を使って試してみようと考えた。そこで侍医アンブロワーズ・パレが呼ばれて、王は彼に、あらゆる毒にきく解毒剤というものがあるのかと訊ねた。
パレは,いろんなタイプの毒があるから、そのどれにもきく解毒剤というのは、まず有り得ないだろうと答えた。すると糞石を献上した貴族が,この石はどんな毒にでもきく特効薬だと言ってどうしても譲らなかったので、では試してみようということになった。
裁判所に問い合わせると、ちょうど翌日、絞首刑になる予定の罪人が一人いる。そこで王はその罪人を呼びつけ、もしお前がモルモットになって、毒と解毒剤を飲み、万一、命が助かったら、無罪放免してやろうと言った。
その罪人はいやがるどころか、大勢のまえで絞首刑になるよりは、毒で死ぬほうがまだましだと言ったので、さっそく彼は、毒とあの糞石の粉を飲まされた。すると罪人は、突然ゲーゲー吐きはじめ、つぎにはひどい下痢になってトイレに行き、全身が焼けるように熱いと言い出した。
さらには立っていられなくなり、獣のように四つん這いになって這い出した。そして顔中真っ赤にして、汗をたらたら垂らしながら吐きつづけ、耳,鼻、口、肛門など、体中の穴という穴から血を流しながら、壮絶な死を遂げたという。結局、糞石とやらの効き目は、期待はずれだったようだ。