ナチのダッハウ強制収容所は、ミュンヘンから約一二マイルの同名の村の近くにあった。数百人の人間モルモットを相手に、いわゆる医学実験が行なわれたのは、じつにこの収容所においてのことである。
一九四一〜四二年にかけて、ナチ親衛隊の医師や医学生の手で、計五〇〇以上の手術が、ユダヤ人捕虜を実験台に行なわれた。なかには二年の経験しかない医学生に、膀胱を除去する手術を行なわせたこともある。
せいぜい四年間の外科経験のある医師というのが、上の部類だった。手術を受けた患者の多くは、手術中に死んでしまうか、手術後の併発症で死んでしまうかの運命をたどった。
ヒムラーの命令下、シェリング博士の手で、約一二〇〇人のユダヤ人捕虜を相手に、マラリアの実験が行なわれたこともある。実験台に選ばれたユダヤ人たちは、一室に閉じ込められ、無数の蚊をはなたれてその餌食になるか、あるいは蚊からとったマラリア血清の注射をされた。
目的は、マラリア熱のための特効薬をテストすることだったというが、その結果、犠牲者の三、四〇人がマラリアを発病して死亡した。その後も数百人の犠牲者が、体の組織を病原菌に冒されたあげく、別の病いを併発して死んでいった。