断食や絶食で死にいたることはあっても、おいしい食事を腹いっぱい食べて死ぬというのは、あまり聞いたことがない。しかし世のなかには、そんな変わった殺人法も存在するのである。
殺人犯の名は、ピエール・グリエ。つねづねイヤな奴だとか、邪魔な奴だとか思っている相手を、ターゲットにする。彼らに、「うまいレストランがあるんだが、一緒にどうだい?」と、さり気なく誘うのである。
誘われたほうは、どういう風のふきまわしかと思うが、誘われて悪い気はしない。ほいほいとついていき、腹いっぱい食べ終わると、グリエは、
「どうだった? 満足した?」
「うん満足、満足。なかなか悪くないじゃない、ここ」
相手がニコニコしてそう答えると、待っていたように、
「まだまだ、ここなんか序の口。もっといいところを知ってるんだ。今度、一緒にどうだい?」
誘われた相手も、またタダ食いが出来るならと、ほいほい乗ってくる。かくて、豪勢な食べ歩きが、始まるというわけだ。じつは医学的には、過食をつづけると二、三カ月で病気になり、一年もつづければ死にいたるとさえ言われる。
案の定、グリエにターゲットにされた相手は、半年もたたないうちに肝炎や糖尿病にかかってしまい、床についたあげく、やがて緩慢な死にいたるのである。このようにして死にいたらされた、グリエの犠牲者は、なんと計八人にも達したという。
ところで、グリエが最後に選んだ相手は、死刑執行人の下働きを務めていた男。グリエはその男と、はりきってステーキの大食い競争にいどんだ。ところが、一四枚目を食べ終わったところで、ついにグリエのほうがダウンしてしまった。そして皮肉にも、そのまま心臓マヒであの世に行ってしまったのである……。