クラリータ・ゴメスは、若き人妻。夫のレナルドとのあいだはまあまあだったが、子宝に恵まれないのが悩みの種だった。そんなある日クラリータは、レナルドに古くからの愛人がいることを知ってしまう。
嫉妬に狂ったクラリータは、愛人の住所を調べあげ、ついにある日、その女のアパートに単身のりこんだ。ところが出てきたのは、まだあどけない顔をした男の子。室内にどんどん押し入って、その女を問いつめると、女は言いにくそうに、その子が、自分とレナルドとのあいだの子であることを認めたのだ。
ショックと悔しさで、クラリータはくらくらと眩暈がした。なんということ、私をうらぎって浮気したばかりか、彼女とのあいだに子供まで……。私に子供が出来ないことを知っているくせに、これはなんてひどい裏切り……。
しかしクラリータはなぜか、その晩帰ってきた夫を、問いつめようとはしなかった。彼女が思いついたのは、実のところ、それよりはるかに恐ろしい復讐だった。夫に生きた�ヒル�を、エスカルゴの一種といつわり、一年以上ものあいだ食べさせつづけたのである。
「生きたままのを食べるのが、通なのよ」、これがクラリータの口癖だった。夫のほうも、最初は奇妙な味だと思ったが、だんだん慣れて、「なかなかおつな味だ」と思うようになっていた。しかし食べつづけていくうちに、しだいに腹部がちくちくと痛みだし、顔色も悪くなり、げっそりと痩せて、皮膚がかさかさになってきた。
それがヒルであると分かったときには、彼の体は衰弱しきって、もはや治療の余地もない状態だった。もともと彼は胃潰瘍だったので、胃壁のくずれた部分からヒルが外に出て、胃に巣をつくっていたのである。
腹痛を訴える夫をいたわるどころか、クラリータはしまいには、無理やり夫の口をこじあけて、ヒルを流し込んでいたらしい。解剖の結果、驚いたことに、レナルドの体内には一〇〇匹あまりのヒルが、うようよしていたということだ……。