「ハノーバーの吸血鬼」ことハールマンは、二四人の少年を殺して、その肉をソーセージにしたことで有名だ。二四人というのはあくまで正式に告発された数で、実際はもっと多かったという。当時の新聞には、「一九二四年の一年間に、人口四五万のハノーバー市で、六〇〇人の少年と五〇〇人以上の男娼が消えてしまった」と書かれたほどだ。
一九二四年五月一七日、ハノーバーの河岸で、人間の頭蓋骨が見つかった。警察がさらに捜査すると、周辺で袋につまったバラバラの人骨が発見された。ほとんどがノコでひかれたもので、一〇代から二〇代の青少年のもののようだった。
しかし、これで驚くのはまだ早い。捜査がすすむにつれ、ほとんどハノーバーの全域から人骨が出てきたのだ。とくに骨が沢山発見されたライネ川の運河で,捜査当局は大掛かりな川ざらいを行ない、ここだけで少なくとも二二人分の人骨が発見された。
市民の不安がたかまるなかで、警察は二四年六月二三日、フリードマン・ハールマンという男を逮捕した。四五歳の同性愛者で、闇取引や未成年誘拐などの前科があった。彼の住むアパートを家宅捜査すると、大量の男物の上着やズボンが発見され、犠牲者の家族たちはそのほとんどに見覚えがあると証言した。
ハールマンは同性愛の相手であるハンス・グランスと組んで、少年誘拐を行なっていたのだ。当時のドイツは大戦後の食料難だったので、駅前やカフェのまえにむらがる少年たちを、パンをエサに誘って家に連れてくるのだ。
グランスが連れてきた少年を、ハールマンは縄でしばり、その肉体を好きなだけもてあそぶ。その後は少年の喉に噛みついて生き血をたっぷり吸い、生肉を食べる。さらに死体をノコギリでばらばらにして、骨だけ残してきれいに肉をそぎとる。
そして人肉を細かく刻んでハムやソーセージをつくる。死体からはぎとった服や靴などは、古物商に売って金に換える。当時ハールマンの店は、手に入りにくい新鮮な肉を提供する店として繁盛していた。事件の発覚後、市民たちはいつのまにか、自分たちが知らないあいだに、人肉を食わされていたことを知って愕然とした。