スウェーデンのオーベルリダに住む、一七歳の少年エリック・ラルソンは、友達と遊んで夜中に帰宅したが、父がいつになく食堂で酔い潰れているのを見て、変だなと思った。
母親を探してサウナ室に行ってみると、そこには母が、腕や肩に吹き出た血はかさぶたのように固まり、全身は無残な黒焦げになった、見るも恐ろしい死体となって倒れているではないか……。
警察が駆けつけ、食堂で酔い潰れていた父は、重要参考人として連行される。ショックを受けたエリック少年は、ただちに病院に運ばれた。母カリンの死は、とうてい自殺とは考えがたかった。
なにしろ、死にもの狂いに暴れまわった形跡があるのだ。サウナ室のベンチをドアに向かって力いっぱい投げつけたようで、ベンチの破片がドアの板材にのめりこんでいる。自分自身もドアに何度も体を叩きつけたらしく、肩の部分の肉が裂けて、板材に血痕が飛び散っている。
しかしそれでもびくともしないので、半狂乱になったカリンは、今度は灼熱した溶岩のかたまりをヒーターからむしりとり、それでドアを滅多うちにしたらしい。その証拠に、指の皮膚が剥がれ、真っ黒に焼け焦げていた。しかし必死の試みもかいなく、ついに無残にも、熱気でじわじわと蒸焼きにされていったのだろう……。
実験の結果、使用温度の摂氏八〇度からぐんぐん温度が上がって、摂氏二〇〇度以上になり、それからかなりの時間のあいだ、そのような高温がつづいたらしいことが分かった。その証拠に、サウナの内壁が広範囲にわたって焼けこげている。
警察の調査で、カリンが少しまえからかかりつけの医師と不倫の関係になっており、夫アンデルスと離婚して、医師と再婚しようと計画していたことが判明した。離婚話を持ち出された夫が、逆上して、復讐のために妻をサウナで焼き殺したのだ……。
カレンがサウナ室に閉じ込められたのは午後七時ごろ。それから彼女は死を逃れようと三時間ほど悪戦苦闘を繰り返したが、ついに午後一〇時前後に力尽きて意識を失った。しかしそれから絶命するまでは、さらに三時間を要したと考えられる。したがってほぼ正確な死亡時刻は午前一時。そしてサウナ室が室内温度なみにもどるには、最低二時間は必要だ。ちょうどその午前三時ごろ、エリックが母の変わりはてた姿を発見した……。
これは、カリンとほぼ同じ体重の子牛の死体を使って、サウナ室で実験した結果である。
一九八五年五月一〇日、ついにアンデルス・ラルソンに終身刑の判決が下された。妻に浮気された夫にも同情の余地がないとはいえないが、それにしてもサウナで丸焼きという殺し方が、あまりに残虐すぎるということで、陪審員の意見が一致したのである……。