結婚式を間近にひかえ、シンシアは浮かない顔だった。いったいどうしたの? と花婿に聞かれても、ただ黙って首をふるだけ。誰にも打ち明けることは出来ず、ひとりで悩んでいる様子だった。
いよいよ晴れの結婚式も無事に終わり、これからハネムーンに出発と、花婿は喜びを隠し切れない様子。シンシアも、つとめて明るくふるまおうと努力した。しかし本当いって、不安で胸はつぶれそうだった。
「でも、誰にも打ち明けることはできない。打ち明けたって、誰も信じてくれるはずはないもの……」
と、シンシアはハネムーンの飛行機のなかで、ひとり、心につぶやくのだった。そして、彼女の恐れていたことが、とうとう起こってしまったのである……。
その夜、初夜のベッドのうえ、シンシアは夫の厚い腕に抱かれ、燃えるような激しさで互いを求めあっていた。ところがそのとき、とつぜん彼の体にピリピリッと電気が走ったと思ったとたん、ひきつったように痙攣して、心臓がぴたりと止まってしまったのだ……。
「あなた! あなた! しっかりして!」
シンシアは必死になってベッドのうえの夫をゆすったが、もはやぴくりとも動かない。夫は死んでしまったのだ。彼女の心配していたことが、とうとう起こってしまったのだ。しかしそれにしても、それがこんな形で、ハネムーンの場所で起こってしまうなんて……。
あまりのショックでシンシアは、「彼が死んだ。わたしが殺したんだ……」と、茫然として、口のなかでつぶやくだけだった。
実はシンシアには、長いあいだ悩みのたねである一つの秘密があった。彼女は静電気をおびやすい体質で、電化製品にさわるだけで、ヒューズが飛んでしまうようなことが、しばしばあったのだ。
シンシアは毎日、不安だった。掃除機も洗濯機もトースターもミキサーも、電源が切れてしまうのではと、毎日おそるおそる使うのだ。そしてついに……、ハネムーンでの激しいセックスで、今度は夫を感電死させてしまったというわけである。
信じられないことだが、本当だ。電気人間は、本当に存在していたのである。いまとなっては遅すぎるが、せめてもっとマイルドに愛しあえばよかったのか……?