入管はことさらに権力に弱い彼女たちにとっては、人生に決定的な決断をくだすおおいなる権力機関である。ある意味では局員たちのサジかげん一つで運命が左右される。先に、謹厳すぎるとも思える局員が多いといった話をしたが、わずかであるにしても、温情がまったくないわけではない。そうした一つの例をご紹介しておこう。
二八歳で六二歳の日本人男性と偽装結婚した女性が、その偽の「新郎」を伴って入管へビザの申請に行ったときのこと。入管の用意周到な質問ぜめにあって、男性がついにほんとうのことをベラベラとしゃべり出してしまったのである。きっかけは住居が別であることの判明だった。彼女は身体から血の気が引いていくようなそのときの気持ちを、「天がくずれるような気持ち」と表現した。これは韓国のコトワザなのだが、絶体絶命のピンチに遭遇したようなときの気持ちを表している。
彼女は万事休したことを悟るや、その場でワッと泣き出してしまった。局員は無言のまま、しばらくは泣きじゃくる彼女を見ているばかりだったが、やがて彼女の方に身を乗り出すようにして静かに口を開いた。
「充分なたくわえができたら、なるべく早くお国へお帰りなさい」
そう言って結婚ビザを発行してくれたのである。
確かにその局員はいい人だったのである。が、地獄に仏と言えば通俗的な言い方にすぎるだろう。権力はそのサジかげん一つで、彼女たちを追いやることもできれば、また救うこともできることを、この例は物語っている。
あのときの嬉《うれ》しさは生涯忘れられないでしょう——。心の底からそう言う彼女の気持ちは尊重されなくてはならない。が、してやったりとペロリと舌を出すくらいの図太さが欲しいとも思う。韓国の女たちの多くが、よかれ悪《あ》しかれ、こうしたウブな心情の持ち主なのである。金持ちの愛人になると言えば、日本ではそこに、したたかな女の生き方を見ることができるかもしれない。しかし、韓国の女では、自立精神の未熟さ、つまり他者に頼って生きることを当然のように考えて育った心のあり方を、そこに見なくてはならない。
二八歳で六二歳の日本人男性と偽装結婚した女性が、その偽の「新郎」を伴って入管へビザの申請に行ったときのこと。入管の用意周到な質問ぜめにあって、男性がついにほんとうのことをベラベラとしゃべり出してしまったのである。きっかけは住居が別であることの判明だった。彼女は身体から血の気が引いていくようなそのときの気持ちを、「天がくずれるような気持ち」と表現した。これは韓国のコトワザなのだが、絶体絶命のピンチに遭遇したようなときの気持ちを表している。
彼女は万事休したことを悟るや、その場でワッと泣き出してしまった。局員は無言のまま、しばらくは泣きじゃくる彼女を見ているばかりだったが、やがて彼女の方に身を乗り出すようにして静かに口を開いた。
「充分なたくわえができたら、なるべく早くお国へお帰りなさい」
そう言って結婚ビザを発行してくれたのである。
確かにその局員はいい人だったのである。が、地獄に仏と言えば通俗的な言い方にすぎるだろう。権力はそのサジかげん一つで、彼女たちを追いやることもできれば、また救うこともできることを、この例は物語っている。
あのときの嬉《うれ》しさは生涯忘れられないでしょう——。心の底からそう言う彼女の気持ちは尊重されなくてはならない。が、してやったりとペロリと舌を出すくらいの図太さが欲しいとも思う。韓国の女たちの多くが、よかれ悪《あ》しかれ、こうしたウブな心情の持ち主なのである。金持ちの愛人になると言えば、日本ではそこに、したたかな女の生き方を見ることができるかもしれない。しかし、韓国の女では、自立精神の未熟さ、つまり他者に頼って生きることを当然のように考えて育った心のあり方を、そこに見なくてはならない。