その夜ヨンスギは、ママに頼んで休みをもらい、私とソウルの街へ出た。シーチォン(ソウル市庁)前のニューソウルホテルのディスコクラブに行って、久しぶりに二人して酔っぱらおうというのである。少し時間が早かったので、二階のコーヒーショップで時間をつぶすことにした。
コーヒーショップには日本人客があちこちにいて、大変に混《こ》んでいたが、ヨンスギが「ここがいい」と見つけた席に私たちは座り、コーヒーを注文しておしゃべりを続けた。しばらくして、少し話がとぎれたとき、ヨンスギがとなりの席に座っている三人の男たちに向かって、「すみません、ボールペンを貸して下さい」と日本語で言うのだ。
男たちは大阪弁で答えていたが、その身なりからして、明らかに日本のビジネスマンであった。私は呆《あき》れて彼女を見ていた。日本語を話せないはずだと思っていたヨンスギが、まあまあの日本語で、男たちにニッコリと笑いかけて話している。
確かにヨンスギは学生時代からきれいな女だった。またその微笑は多くの男子学生たちを魅惑したものである。彼女の日本人の男たちへの笑いから、私は当時の彼女の笑いを思い出していたが、さすがに積年の隔たりを感じないではいられなかった。いまのヨンスギの笑いは、洗練された女の妖《あや》しげな魅力をたたえた、実にセクシャルな雰囲気を生み出している。一瞬私は、彼女に嫉《しつ》妬《と》している自分を感じ、思わず目の前のコップの水を勢いよく飲み干していた。
「あなたたち、いつ韓国に来ましたか? 彼女は私の友だち、東京に住んでいて、きのう韓国に来ました」
突然ヨンスギに指さされて紹介された私は、どぎまぎして何を言ってよいかわからず、つい「すみません」と言っていた。
一人がすぐに、「東京ですか、私たちは大阪から来たんです」と話を引きついでくれたので、私も気が楽になり、五人での軽い雑談がはじまった。彼らはここで韓国のある企業の社長と待ち合わせをしているのだという。
しばらくするとその韓国人の企業家がやって来た。彼らはわざわざ私たちの紹介までしてくれる。するとその社長は、「君たちも一緒に来なさい」と誘ってくれる。彼らもすすめるので私たちはおともをすることになり、日本式の料亭でビールと食事をごちそうになった。
ビールの力でいい気分になった私たちは、料亭で韓国人の社長と別れた後、二人で行く予定にしていたディスコへ五人で繰り出そうということになった。ディスコで盛んに飲みながら、私は何が何でこうなったのかわからないままに、ともかくも楽しかった。
しばらくすると、ヨンスギはトイレへ行って帰って来ると、ママさんハウスに電話をしてきたのだと言う。私は鈍いことにも、そこでやっとヨンスギの意図がわかったのだった。三〇分後に若くてきれいな三人の女たちが席にやって来た。ヨンスギは彼女たちを男たちに紹介しながら言った。
「あなたたちが、あまりすてきな紳士だから、私の後輩を呼んだのよ。私たち二人は帰らなくちゃならないけど、よかったらこの子たちと遊んでやって、三万円ずつあげてね」
三人の男たちは酔った勢いも手伝って、二十歳くらいに見える三人の女たちを喜んで席へ招いていた。
私たちはディスコを出た足で、そのまま仕事で出払ってだれもいないママさんハウスにもどり、彼女の部屋で二人して寝た。女たちのいない静かなママさんハウスでぐっすりと眠った私は、翌日、女たちが一人、二人と帰って来はじめた昼ごろにヨンスギと別れてママさんハウスをあとにした。
コーヒーショップには日本人客があちこちにいて、大変に混《こ》んでいたが、ヨンスギが「ここがいい」と見つけた席に私たちは座り、コーヒーを注文しておしゃべりを続けた。しばらくして、少し話がとぎれたとき、ヨンスギがとなりの席に座っている三人の男たちに向かって、「すみません、ボールペンを貸して下さい」と日本語で言うのだ。
男たちは大阪弁で答えていたが、その身なりからして、明らかに日本のビジネスマンであった。私は呆《あき》れて彼女を見ていた。日本語を話せないはずだと思っていたヨンスギが、まあまあの日本語で、男たちにニッコリと笑いかけて話している。
確かにヨンスギは学生時代からきれいな女だった。またその微笑は多くの男子学生たちを魅惑したものである。彼女の日本人の男たちへの笑いから、私は当時の彼女の笑いを思い出していたが、さすがに積年の隔たりを感じないではいられなかった。いまのヨンスギの笑いは、洗練された女の妖《あや》しげな魅力をたたえた、実にセクシャルな雰囲気を生み出している。一瞬私は、彼女に嫉《しつ》妬《と》している自分を感じ、思わず目の前のコップの水を勢いよく飲み干していた。
「あなたたち、いつ韓国に来ましたか? 彼女は私の友だち、東京に住んでいて、きのう韓国に来ました」
突然ヨンスギに指さされて紹介された私は、どぎまぎして何を言ってよいかわからず、つい「すみません」と言っていた。
一人がすぐに、「東京ですか、私たちは大阪から来たんです」と話を引きついでくれたので、私も気が楽になり、五人での軽い雑談がはじまった。彼らはここで韓国のある企業の社長と待ち合わせをしているのだという。
しばらくするとその韓国人の企業家がやって来た。彼らはわざわざ私たちの紹介までしてくれる。するとその社長は、「君たちも一緒に来なさい」と誘ってくれる。彼らもすすめるので私たちはおともをすることになり、日本式の料亭でビールと食事をごちそうになった。
ビールの力でいい気分になった私たちは、料亭で韓国人の社長と別れた後、二人で行く予定にしていたディスコへ五人で繰り出そうということになった。ディスコで盛んに飲みながら、私は何が何でこうなったのかわからないままに、ともかくも楽しかった。
しばらくすると、ヨンスギはトイレへ行って帰って来ると、ママさんハウスに電話をしてきたのだと言う。私は鈍いことにも、そこでやっとヨンスギの意図がわかったのだった。三〇分後に若くてきれいな三人の女たちが席にやって来た。ヨンスギは彼女たちを男たちに紹介しながら言った。
「あなたたちが、あまりすてきな紳士だから、私の後輩を呼んだのよ。私たち二人は帰らなくちゃならないけど、よかったらこの子たちと遊んでやって、三万円ずつあげてね」
三人の男たちは酔った勢いも手伝って、二十歳くらいに見える三人の女たちを喜んで席へ招いていた。
私たちはディスコを出た足で、そのまま仕事で出払ってだれもいないママさんハウスにもどり、彼女の部屋で二人して寝た。女たちのいない静かなママさんハウスでぐっすりと眠った私は、翌日、女たちが一人、二人と帰って来はじめた昼ごろにヨンスギと別れてママさんハウスをあとにした。