欧米の人たちに韓国人と日本人の印象を聞いてみると、韓国人はとにかく気性が激しく、日本人はおとなしいと言う。確かに、韓国人は一般的にきわめて感情が激しく、何をするにも情熱的に心を傾ける民族だ。恋人に対しては言うまでもなく、友だちに対しても、親や子に対してもその愛は情熱的だ。したがって、それだけ嫉《しつ》妬《と》心《しん》も強く、恨みの意識も根深いものとなる。感情の起伏もきわめて激しいのだ。
こうした国から日本へやって来た私は、最初は、日本人はなんて冷たい人たちばかりなのだろうと感じていた。感情があるのかないのか、好きなのか嫌いなのか、得体の知れない不安感に陥ってしまった。情熱を燃やしていると見えるのは暴走族の若者くらいで、青春の特権とも言える、政治と恋と芸術に情熱を燃やす若者の姿はほとんど見られない。ともかくも、おとなしい人たちだという印象だった。
あるとき、テレビでトウガラシとワサビが人体に与える作用の差についての番組を見た。そして、この韓日両国を代表するふたつの香辛料が、あまりにも両国の国民性を上手に物語っていることを知って感心させられたことがある。ふたつとも辛いことは同じだが、身体が受ける反応は大きく異なるのである。
番組ではだいたい次のような違いが、人体内部を循環する血液の動きを映し出しながら紹介されていた。
トウガラシを食べたときの人間の血液は身体全体をめぐりながらも、とくに頭部の方へのかたよりを見せる。したがって、トウガラシを食べると神経に刺激を与え、血液の循環をよくし、食欲を増進させる。また脂肪分を分解する役割をするため、太り過ぎを防止するが、同時に精神的に興奮しやすい作用を産み出してもいる。
一方、ワサビを食べたときの血液は、トウガラシとは逆に心臓の方へのかたよりを見せている。そのため、ワサビを食べると鎮静作用が働き、精神に落ち着きをもたらしてくれる。
まさにズバリ、韓日の国民性の違いが指摘されているようで、思わず「なるほど」とうなずいたものである。
事実、韓国人には太っている人が少ない。スタイルのよい人が多いのだ。そして、社会全体がカッカしていることは間違いない。落ち着きがないというよりは、むしろ平穏無事な社会が続くことの方にイライラを感じるようなところがある。何か事を起こして常に人々の注目を浴びていたいのである。そういう意味ではことさらな他意があるわけではない。
おおむね、日本に対して神経が逆立ちしているような社会が韓国のものである。日本の社会は、事が起こればどう鎮《しず》めるかに関係者が努力する社会である。「興」を好む社会と「鎮」を好む社会と言ってもよいかもしれない。
ののしりあいや大声を上げての喧《けん》嘩《か》は、韓国では珍しくもないから、強いて止めようとする人は少ない。喧嘩と大声は、韓国では一般的なストレス解消法でもある。「日本人のように我慢ばかりしていたら病気になってしまう」とは、韓国人がよく口にすることである。
夜遅くの盛り場では、客とホステスの口争いがあちこちで見られる。だいたいは、ホステスの「チップが少ない」という文句からはじまる。また、道路の混雑する夕方にタクシーに乗ると、運転手の態度に怖くなることがしばしばだ。朝から働いて疲れている上に、混雑した道路を走らされるわけだからわからないでもないが、それにしてもまるで客が罪人でもあるかのような口振りなのだ。クラクションをガンガン鳴らし、急加速に急ブレーキを繰り返す。文句を言おうものなら確実に喧嘩になる。
日本に来てワサビの味を知ってしまった私は、たまにソウルの町をめぐるとぐったりと疲れてしまう。もちろん、ソウルの町の喧《けん》騒《そう》はトウガラシのせいばかりではあるまい。また、人口密度が高いからと言っても、それはどこの世界都市でも同じこと、ソウルだけに特有なことでもない。だとすれば、韓国社会の仕組みは、どこかストレスが溜《た》まるように出来ているのではないだろうか。
そこで、韓国にワサビが普及したらどうなるだろうか……と夢想するのである。しかし、ワサビと言えば日本、日本と言えばワサビ、反日感情の強さから言って、日本のにおい漂うこの香辛料が普及することを望まない人が多いに違いない。
こうした国から日本へやって来た私は、最初は、日本人はなんて冷たい人たちばかりなのだろうと感じていた。感情があるのかないのか、好きなのか嫌いなのか、得体の知れない不安感に陥ってしまった。情熱を燃やしていると見えるのは暴走族の若者くらいで、青春の特権とも言える、政治と恋と芸術に情熱を燃やす若者の姿はほとんど見られない。ともかくも、おとなしい人たちだという印象だった。
あるとき、テレビでトウガラシとワサビが人体に与える作用の差についての番組を見た。そして、この韓日両国を代表するふたつの香辛料が、あまりにも両国の国民性を上手に物語っていることを知って感心させられたことがある。ふたつとも辛いことは同じだが、身体が受ける反応は大きく異なるのである。
番組ではだいたい次のような違いが、人体内部を循環する血液の動きを映し出しながら紹介されていた。
トウガラシを食べたときの人間の血液は身体全体をめぐりながらも、とくに頭部の方へのかたよりを見せる。したがって、トウガラシを食べると神経に刺激を与え、血液の循環をよくし、食欲を増進させる。また脂肪分を分解する役割をするため、太り過ぎを防止するが、同時に精神的に興奮しやすい作用を産み出してもいる。
一方、ワサビを食べたときの血液は、トウガラシとは逆に心臓の方へのかたよりを見せている。そのため、ワサビを食べると鎮静作用が働き、精神に落ち着きをもたらしてくれる。
まさにズバリ、韓日の国民性の違いが指摘されているようで、思わず「なるほど」とうなずいたものである。
事実、韓国人には太っている人が少ない。スタイルのよい人が多いのだ。そして、社会全体がカッカしていることは間違いない。落ち着きがないというよりは、むしろ平穏無事な社会が続くことの方にイライラを感じるようなところがある。何か事を起こして常に人々の注目を浴びていたいのである。そういう意味ではことさらな他意があるわけではない。
おおむね、日本に対して神経が逆立ちしているような社会が韓国のものである。日本の社会は、事が起こればどう鎮《しず》めるかに関係者が努力する社会である。「興」を好む社会と「鎮」を好む社会と言ってもよいかもしれない。
ののしりあいや大声を上げての喧《けん》嘩《か》は、韓国では珍しくもないから、強いて止めようとする人は少ない。喧嘩と大声は、韓国では一般的なストレス解消法でもある。「日本人のように我慢ばかりしていたら病気になってしまう」とは、韓国人がよく口にすることである。
夜遅くの盛り場では、客とホステスの口争いがあちこちで見られる。だいたいは、ホステスの「チップが少ない」という文句からはじまる。また、道路の混雑する夕方にタクシーに乗ると、運転手の態度に怖くなることがしばしばだ。朝から働いて疲れている上に、混雑した道路を走らされるわけだからわからないでもないが、それにしてもまるで客が罪人でもあるかのような口振りなのだ。クラクションをガンガン鳴らし、急加速に急ブレーキを繰り返す。文句を言おうものなら確実に喧嘩になる。
日本に来てワサビの味を知ってしまった私は、たまにソウルの町をめぐるとぐったりと疲れてしまう。もちろん、ソウルの町の喧《けん》騒《そう》はトウガラシのせいばかりではあるまい。また、人口密度が高いからと言っても、それはどこの世界都市でも同じこと、ソウルだけに特有なことでもない。だとすれば、韓国社会の仕組みは、どこかストレスが溜《た》まるように出来ているのではないだろうか。
そこで、韓国にワサビが普及したらどうなるだろうか……と夢想するのである。しかし、ワサビと言えば日本、日本と言えばワサビ、反日感情の強さから言って、日本のにおい漂うこの香辛料が普及することを望まない人が多いに違いない。