私が日本に来て日本語学校に通っていたときのこと。日本語は韓国語と文法も語順もほとんど同じで、違和感がないために、韓国人にとっては早く習得することのできる言語である。そのため、他の外国人のような苦労がなく、はじめのうちはスイスイと進む。そこで、韓国人は「自分たちは外国人より頭がいいんだ」と思うことにもなる。私もそう思ったものである。
しかし、何カ月かたって大きな壁にぶつかった。教師のさまざまな質問に生徒たちが答えるのだが、十四人の外国人留学生のなかで、ただ一人の韓国人である私だけが、どうもうまく答えられていないのだ。それは、受け身形の使い方の授業だった。
それまで、成績のよかった私のテストの点数がグッと下降しはじめてもいた。教師からはもっと自宅で勉強してくるように言われるのだが、自分では十分にしてきているつもりなのだった。そして、だんだんと教室で教師の言うことを理解することが難しくなっていった。
そんな状態が続いて、しだいに学校に行くことが嫌になってしまった。私はしばらく学校を休み、受け身形が終わってまた学校に行きはじめた。難しいからと、私は受け身形をパスしてしまったのである。そのため、受け身形の日本語をものにするまでに、大変な苦労をすることになってしまったのだった。
たとえば、テレビを見れば「あなたにまでそう思われるとつらい」といって夫婦ゲンカをしている。また「そう言われると嬉しい」と友だちが喜んでいる。こういう言い方は韓国ではしない。日本語ではほとんどの動詞に受け身形をつくれるが、韓国語ではほとんどの動詞が文法的に受け身をつくることはしないのだ。そのため、韓国人には受け身形の習得がことのほか難関となっているのである。