性急であったために失敗すると、結果論として、先取りしようとしてそれがうまくいかなかったと非難されることになる。韓国の政治政策でも、そうした失敗がかなり多いように思われる。韓国の政治家が性急なゆえに失敗したという、少々おもしろい話があるのでご紹介しておこう。
何年か前のことだが、大統領選挙の後、韓国の新聞の一面の見出しに次のような言葉が大きく印刷された。
「キムチのおつゆから先に飲んだキムヨンサムとキムデジュンが大失望」
この意味がおわかりになる日本人は、そうそういないのではないだろうか。もちろん、韓国人ならばすぐに「ハハン」とうなずくのである。
新聞にこの見出しが掲載されたとき、とても韓国語が上手で、韓国と日本の間をたびたび往復している日本のビジネスマンが、当の新聞を持って私の事務所に現われた。そして、
「この意味なに? キムチもわかるし、おつゆもわかるし、飲んだということもわかる。それでいいの? ほんとに二人がキムチのおつゆを飲んで失望したわけ?」
と聞く。
彼はさらに、
「記事を読んでみても、キムチなんかと全然関係ないよね。なのに、なんでそうなるわけ?」
と不思議そうな顔をするのだった。
私はこみ上げてくる笑いをおさえることができなくて、しばらくの間、新聞を手にけげんな顔をして立つ彼の顔を見ながら、一人で涙を流しながら笑い続けたものだった。
お答えしましょう。
キムチをつぼに漬けておいて、上の方からキムチを食べていくと、全部食べた後(約三カ月後)におつゆが残る。これはとても美《お》味《い》しいもので、韓国ではこのおつゆをスープにしたり鍋ものに使ったりする。したがって、最後に飲む、とっておきの御《ご》馳《ち》走《そう》となるのがキムチのおつゆなのである。
そこで、「キムチのおつゆから飲むな」という諺がある。日本語で言えば「取らぬ狸の皮算用」と同じ意味だ。
つまり、先のうま味ばかり計算して、大統領になったらこうしようということばかり考えていて、現実的にはうまくいかずに落選し、二人の大統領候補が失望したということなのである。まさしく、目の前の現実を注視することなく、先のうま味に目がくらんだ性急さゆえの失敗と言うべきだろう。