女は美が一番。そしてその美の内容はというと派手さである。
韓国人は原色の派手な色が好きだ。五つの原色の入ったチマチョゴリがあるが、現代の服装のモチーフにもよく使われている。ソウルの町は常に華やかで生命感に溢《あふ》れているように見える。私が韓国にいたころ、ソウル市内を走るバスはパッと目に鮮やかな紫色で塗られていた。それを韓国へ行って見た日本人は気持ちが悪くなったといったが、当時の私には洗練された美に見えていた。
それから何年か後に東京で、これまで日本では見たことのない、明るい紫色の観光バスを見た。私は何かとても嫌な感じがしたのだが、思い起こすとソウルのバスの色にそっくりだった。いつの間にか、感覚が東京的になってしまっていたことに気づかされた。
歌舞伎町や赤坂では、夕方になると日本をはじめ、アジア各国のホステスたちが店へと急ぐ姿が見られるが、韓国人は一目でそれとわかる。顔つきだけでは日本人とは区別がつかないが、ポイントは服の色と化粧だ。日本のホステスならばまず着ることがない、ファッションショーの舞台から直行して来たような、強く濃い化粧をほどこし、見る目に派手な色の服に身を包んでいる。
彼女たちは、それが女らしいセックスアピールだと感じている。日本に来て二、三年の間は、私は韓国人のホステスはさすがに日本人ホステスより洗練されていると鼻が高かった。あるとき、そんな話を服《ふく》飾《しよく》デザインの仕事をする日本人にしてみた。「洗練されているって? とんでもない、あれはひどいよ、まったく見ちゃいられない」と言われて驚いたが、そのときには韓国人に対する偏《へん》見《けん》ではないかと、内心プリプリしていた。
しかし、それから日本の男に会うたびに感想を聞いてみたが、だいたいが、同じく「なっていない」の答えがかえってくる。どこをダメと言っているのかわからない私は、日本のおしゃれ雑誌と韓国のおしゃれ雑誌を用意して、日本の女たちに見せて感想を聞いてみた。答えのほとんどは、「韓国人の方がセンスがない」というものだった。それでもセンスの所在がよくわからない。そこで、次には韓国の女たちに聞いてみる。答えはおよそ次のようだった。
「日本のテレビのタレントたちはセンスがあるけれど、ホステスたちにしても一般の女性にしても、なんかセンスがないわね。おしゃれを知らないわね。日本の服は洗練されていないから買えないわ」
これでやっとわかった。テレビや舞台に出るときの化粧、服装、つまり色の沈みを起こさない明るい色、どこにいても人目をひく原色系の色、輪《りん》郭《かく》がくっきりと浮き出るように彫りを深く見せる化粧……。これらが韓国の女たちが最も気を配っているものだった。そのへんを磨いてこそ洗練されるし、そのへんのポイントをどうつかまえるかが、センスのよし悪しの別れ道となっているのだ。
かつて、ホステスに負けないくらい真っ赤なルージュをつけていた私は、日本人の好みを知って、ある日ルージュの色をそのころ日本で流《は》行《や》っていたピンク系の色に変えて、勤めていた会社に出てみた。
やはり、である。「最近、どこか違うなあ、何か洗練されてきたね」と言われることが多くなる。ついでに、服の色も淡い色や地味な色に変えてみた。すると、確実にこれまでと日本の男たちの態度が違ってきたようだった。そうなるとこちらも楽しくなるので、以来、できるだけ日本的なおしゃれに気を使うことにしているが、もともとおしゃれのセンスがないせいか、なかなか身につくことは難しいようだ。
韓国の女は黒と赤を調和させた色あいが最もセクシャルだと感じる。日本の男に聞いてみると、「そんなのはまるでセクシャルじゃない、ピンク系統の淡い色がセクシャルだ」と言う。韓国ではピンクは子どもか処女のイメージである。