日本でも美容整形は大いに流行っているが、例外はあるものの、日本人の場合は多くが気分転換であり、ファッション的な感覚であることは、日本の女性雑誌などからも知ることが出来る。日本人ではほとんどの人が、整形は自分の問題のごく一部分を占めるにすぎないが、韓国の女にとってはほとんどすべてとなる。
私の日本語レッスンの二時間のうち一時間は、具体的な生活知識の習得や意見交換を目的に世間話をするようにしているが、韓国の女たちが集まると、話題の大部分が美容、とくに美容整形の話となってしまう。別に整形する必要があるとも思えない人でも、どこか整形したいという。まるで趣味のように、「ちょっと、ここがへっこんでいるからそこに注射しようか」とか言っていたかと思うと、次の週にはもうそこにコラーゲンが入っている。
小皺を防ぐために脂肪を入れると、八割方副作用を起こすが、それを覚悟でやる人が絶えない。ほほにコラーゲンを入れても多くが副作用を起こす。入れた部分が下がってくるのだ。それでも成功の可能性を求めてやる人がやはりあとを絶たない。最も多いのが、瞼に入れ墨をいれるもの、眉に入れ墨をいれるもの。ものすごく痛いらしいが、美容のためにはどんな我慢もできるのだ。韓国の女たちとつき合っていると、美容整形をやらない方がおかしな環境となってしまうので、ふと「やってみようか」という気分になっている自分を感じて、われながら驚いてしまうことがよくある。
韓国の美容整形の実態について、日本人の女性記者が、韓国の梨《イ》花《フア》女子大学の学生たち数人にインタビューした雑誌の記事を読んだ。大部分が美容整形には大きな興味を持っており、自分はここを整形したと自慢げに言う者もいるし、いつか自分もぜひやりたいと言う意見も多くあった。梨花女子大学と言えば、日本ならばお茶の水女子大学に相当するだろうか。才女の集《つど》う韓国ナンバーワンの女子大学である。文を重要視してきた儒教的精神はいまなお韓国に強いが、それは男に限られたことで、女はやはり外見的な美を磨くことが第一なのである。
私の娘時代には、美容整形をやることはとても恥ずかしいこととされていた。しかしいまでは、娘にすすめる母親がおり、妻にすすめる夫がいる。
女の美形を価値とする男の都合が消費社会に適合してエスカレートする一方、「親にいただいた身体を傷つけることは最大の不孝である」という儒教倫理は不思議とどこかへとかき消えてしまい、心の底で美容整形を願っていた女たちの欲望が一気に解放されたのである。