韓国の男女の愛の形についてある日本人と話していたら、その人に「韓国人の男女関係は猫みたいだ」と言われた。よくわからないので聞きかえすと、メス猫はオス猫にアタックをかけられても、牙をむいて怒ってみせ、徹底して拒否しようとするらしい。しかし、オス猫は何度拒否されても、執《しつ》拗《よう》にアタックをかけてゆく。そうしてメス猫は、長い間じらせたあげくに、やっと許すのだという。
なるほど、確かに似ているのである。
高校のとき美人の友だちがいた。彼女は高校を卒業してすぐに、小さな雑貨店を営む小太りで容《よう》貌《ぼう》の悪い男に、しつこくいいよられることになってしまった。
彼女はその男の誘いを断わり続けていたのだが、外出すれば、どこまでもついて来ては話しかけて来る。なんとか逃げて、やっとまいたと思うと、帰りがけには駅やバス停に待ち伏せしていて、彼女を見つけるや走り寄って来る。
とにかく、そのしつこさは大変なもので、彼女が「変態!」と罵《ば》声《せい》を浴びせようが、「警察を呼ぶわよ」と言おうが、まるで気にもとめずに、「あなたには僕が必要なんだ」と、一方的に迫り続けて来るのだ。
近所の知り合いでもあったため、警察に訴えることもできない。どうしても逃げることができないが、このままでは気がおかしくなってしまうと、彼女は遠くの親《しん》戚《せき》の家に身を隠してしまった。そうすれば、もはや追いかけては来ないだろうと、したこともない田舎暮らしを決心したのだった。
それから間もなく、彼女のもとへ母親から、「弟が事故にあって命が危ない、早く帰れ」との電話が入った。彼女は驚き、ほとんど着の身着のままで親戚の家を出るや、無我夢中で家へと帰路を急いだ。
しかし、病院のベッドに寝ていたのは弟ではなくその男だった。男は、彼女の家にやって来て、彼女の親の目の前で毒薬を飲み自殺を図ったのである。母親は、「弟が、と言えば帰って来ると思って……」と弁解しながら、「お前も大変な見こまれ方をしたもんだねえ、男があそこまでするんだから、困ったねえ」と溜《ため》息《いき》をついている。
男は、飲んだ薬の量が少なかったため命をとりとめた。
この事件によって、彼女の心は大きく動かされたのである。そこまで自分を愛してくれていたのか——。彼女は男の思いに感嘆し、その情の熱さにほだされているうちに、彼を愛するようになり、ついに結婚を承諾した。
それから数年たって、私は二人目の子どもを生んだ彼女に会いに行った。彼女は私の顔を見るや、夫は浮気ばかりしていると嘆きはじめた。家にもまともに帰らないし、いつも冷たい態度なのだという。子どもを二人生んではいたが、離婚する覚悟を決めて、いったんは逃げたのだが、親子三人が長く身を置けるところはなく、仕方なく夫のもとに戻ったのだと話す。
それから二、三年後に会ってみると、彼女は、いまでは夫のもとから逃げようとした自分を後悔していると言う。「男が浮気をするのはしょうがないわね。許さないという私が間違っていたんだわ」と、あきらめの境地に居座ることにしたようだった。
自殺未遂までして獲得した妻なのに、なぜその男は、そんなにも心変わりをしてしまったのかと思われるかもしれない。しかし、この程度のしつこさは、韓国の男にはなんら珍しいものではない。自殺未遂とは言っても、「思い詰めての——」というよりは、迫力を見せようとするあまりの発作的な行動と言った方がよい。
そういうわけだから、韓国では、男が異常なほど執拗に口《く》説《ど》いて来るからと言って、その男の愛が格別に深いものと見ることは出来ないのである。