韓国では男あっての家族なので、両親は常に娘よりは息子をと願い続けて来た。そして、現在も親たちの息子を欲しがる願いは変わることがなく、そのため深刻かつ大きな社会問題を生み出している。
かつては五、六人の子どもを持つ家族が普通だったが、韓国では二十年ほど前から、男一人、女一人を生もうという、「二人っ子」キャンペーンが張られて来た。さらに、最近では「一人っ子」キャンペーンものし上がって来ている。
消費文明があっという間に韓国を包み、生活様式が急変して、突然、核家族時代がやって来たのである。
そこで、いきおい、韓国では近年ずっと中絶手術がブームのようになっている。恐ろしいことには、七カ月になっても下ろしてくれる病院もある。また、一般の薬局で、三、四カ月までなら下ろせる薬が売られている。
韓国では、性は隠されるべきものとされているので、まともな性教育が行なわれることもなく、また、女たちがどうしても男の要求に添うことになり、女の側から男に対して、避妊を積極的に要求することが少ない。ある女性はまるで避妊をすることなく、男に言われるまま、十回以上も子どもを下ろした体験を雑誌で語っていた。
この堕胎ブームは、息子を欲しがる韓国人の問題にも大きく関連している。
いまでは子どもは二人か一人と決めている夫婦が多いため、最初に生まれた子どもが男の子だとそこで出産打ち止めとするケースが少なくないという。また、妊娠している子どもが男か女かを羊水チェックで知り、女を下ろす場合はかなり多いのだ。
もちろん、医者は妊娠している子どもの男女の別を教えてはいけないことになっている。私の知る産婦人科医は、決して教えないことを自分に言い聞かせていると言いながら、こんな話を聞かせてくれた。
ある妊婦から男女の別を教えて欲しいと言われて断わると、彼女は大声を出して泣き出し、すでに女の子ばかりが五人いて、今度こそ息子を生まないと嫁入り先から追い出されてしまう、だからなんとしても教えて欲しいと頼まれ、仕方なく教えてしまった。悪いことにそれは女の子だった。私がどうしてもそういう中絶手術は出来ないと言うと、彼女は他の産婦人科へ行って、その子を下ろしてしまった。しかも、後で知ったことだが、女の子が五人いるなど真っ赤なウソだった——。
そういうことを背景に、現在の韓国では、まったく異常な、男女児の人口数の格差が生まれてしまっている。
一九九一年五月の『コリアンタイムズ』によれば、十年後の結婚適齢期(男は二十五〜二十九、女は二十〜二十四歳)に達する男女では、男の人口が二〇パーセント多くなり、二〇一〇年にはさらに男が二八・六パーセントも多くなってしまうのである。
人口比率で言えば、一九九〇年の三歳の男の子は女の子一〇〇に対して一〇七・五、二歳では一一一・八、一歳では一一三・五、〇歳では一一四・七と、うなぎ上りに男児の人数が女児の人数を引き離していっている。また、一人の女性が出産する子ども数は、一九八〇年の二・七人から、一九九〇年の一・六人へと、急速な減少を見せている。
戦後の近代化を経て、高度経済成長を遂げ、韓国は大きく飛躍したとは言うものの、それはこれまでの韓半島の歴史と同じように、男社会にとっての飛躍であった。男の子を生むことを要求され続けて来たことのなかで起こっている女たちの生活の現実には、およそ飛躍など起こってはいないのだ。