韓国の会社の社長は、社員からはお客さんよりも大事な存在である。韓国は他人よりも身内が大事なのであり、敬語を身内に対して使うのも韓国の特徴だ。
ある日本人が、韓国に行ったときの話である。
友だちと二人で日本レストランに行った。しばらく待っても注文をとりに来ない。ウェイトレスを呼んで文句を言い、注文をしようとすると彼女は、
「ちょっと待って下さい、いまわが社の社長さまがいらっしゃいましたから」
と奥の方を見ながら言う。よく見ると、そのレストランの社長が来て食事をしており、従業員たちがお客そっちのけで社長に敬意を表している最中だった。二人は怒って席を立ち、外へ出たのだが、誰も引き止める者はいなかった。
社長であれば、社員からは自然にそうした待《たい》遇《ぐう》を受けることになるから、みんな社長になりたがる。ただ、盧《ノ・》泰《テ》愚《ウ》政権下でいわゆる「民主化」のなった韓国では、社長に敬意を表すものの、一方では社長にはなんでもかんでも文句を言ってよいという、自分の言ったことには責任をとらずに権利だけを主張する「民主化」の波も激しく、これまでの秩序も崩れつつある。また、とくに自分の権利を要求することもせず、社長の前でガムを噛《か》んだり、スリッパをはいたりできることが「民主化」だと錯覚する者も多い。