李氏朝鮮時代の上流階級であるヤンバンは肉体労働をしなかった。ヤンバンをめざす韓国人は肉体労働を恥ずかしいことと感じている。日本では恥ずかしいというよりは疲れるから嫌だという感じが強い。韓国でも「汚い、きつい、危険」の3Kを嫌がるというが、それは何よりも恥ずかしいからであり、誇りを持てないというのが主な理由である。
韓国人の留学生たちも肉体労働のアルバイトをしたがらない。ある日本の材木会社の経営者からアルバイトを探していると聞いた。支払いは普通のアルバイトの三倍にはなる。それならと私は「すぐ探せますよ」と言って、留学生たちの溜まり場へ行き、男子学生たちに声をかけた。しかし、一人もやりたいという者がいない。「そんなみっともないこと誰がしますか」と言うのである。
韓国のブルーカラーが工員を嫌い、なんとかサービス業につこうとすることもあって、人手不足で倒産する工場が近年増えて来ていると聞く。まだまだ単純製造業に力を入れなくてはならない韓国で、若い労働力の工場離れは、深刻な社会問題となっている。
それは日本でも同じことには違いない。しかし、その質はまったく違う。どう違うかは、次のトラブルの事例からおわかりいただけるのではないかと思う。
韓国の財閥系家電メーカーが新製品を日本に出荷した。荷を受け取った日本の企業では、倉庫にうず高く積み上げられた製品の山からいくつかのサンプルを抜き出し、簡単な製品チェックを行なった。ところが、どれひとつとして作動しないのである。
製品を解体して調べてみると、ある重要な部品のひとつがすべてに入っていなかった。なぜそのようなことが起きたのか、韓国側に問い合わせてみても、まったく要領を得ない。そこで、日本側が社員を派遣して調べたところ、次のようなことがわかったのである。
その部品を製品に取り付けるには、手首を少々内側へ向けながら作業をしなくてはならなかった。やがて、工員たちが手首が痛いからと文句を言いはじめ、取り付けをサボるようになっていったのである。工場長にそのことを問いただすと、「工員たちが可《か》哀《わい》相《そう》でやれとは言えなかった」と言うのだった。
作業工程を変えれば無理なく取り付けられるのだが、それ以上に、付けにくいからといって工員がそれをサボり、また工場長も文句を言わず、そのまま出荷してしまう神経には、日本側も、もはや何と言えばよいのか言葉もなかったに違いない。
日本人ならば、いかに3Kを嫌っていても、自分が工員であり、また工場長であれば、ともかくもいい製品を造ることに一生懸命に働くはずである。