韓国の経済発展とともに、かつての小さなプレゼントの習慣が、莫大な賄賂社会へと変《へん》貌《ぼう》したことは確かだ。私の知る韓国の小学校の教師は、「いくら子どもたちを平等に見ようとしても、賄賂をもらってしまうと、どうしてもその子に気がいってしまって、ついいい点数をやってしまう」と言う。
それでは子どものためによくないではないかと、小学生の子を持つ韓国人の母親に話してみたことがある。彼女は、「いや、それは逆ですよ。子どものためにいいことなんです」と言って、その理由を次のように話すのである。
「小学校の成績がいいと、たいていの子どもが、中学校、高校へといい成績のまま続くんですよ。それが大学入試から就職にまで響くでしょう?」
ちなみに言えば、韓国では出身大学だけではなく、大学の成績までが就職に影響する。
小学校で勉強ができて、いい子、いい子とほめられると、みじめな気持ちにならなくてすみ、気分がよくなるから、それが勉強のエネルギーとなり、持続する——そういう発想なのである。そして、たぶん、韓国ではそうなる子が多いことも事実だろう。
しかし、そのまま賄賂行為も続けることになり、大学入学にも賄賂のお金が激しくとびかう。日本でも賄賂入学が盛んだと言われるが、おそらく比較にならないほど韓国の方が激しい。一九九〇年に、大学予備試験で一億ウォンから二億ウォンを使った賄賂事件があった。有名大学の場合にはもっとすごいに違いない。
文を重んじていた李氏朝鮮時代がいまは形式だけ残り、学《がく》閥《ばつ》重視となっている。これほど就職先の差、給料の差が出身大学ではっきり違う国は珍しいだろう。韓国では初めて人と会うと、まず学歴の話からはじめることが多い。出身大学を誇ることを嫌い、すぐに出身地を聞いてくる日本人とはまるで違っている。
韓国では、年々増え続ける大学卒業生を受け入れる器が社会に足りないため、最近、とみに就職浪人をする者が多くなっている。そのため、就職試験のときは、バックグランド(地縁、親との関係が最も大きい)と賄賂が大きな意味を持ってくる。
私の知り合いの長男が去年、銀行に就職したが、バックグランドがあって七百万ウォン(百二十万円)を使ったという。バックグランドがなく実力がない場合は三千万ウォン(六百万円)は必要だという。就職するのにも賄賂、なのである。