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ガダルカナル57

时间: 2020-07-30    进入日语论坛
核心提示:57 ガ島戦の前途に希望を認め難いこと、作戦転換の必要のあること、あるいは、作戦打切りの必要のあることを、いつ、誰が考えは
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 ガ島戦の前途に希望を認め難いこと、作戦転換の必要のあること、あるいは、作戦打切りの必要のあることを、いつ、誰が考えはじめたかはわからないし、詮索してもあまり意味がない。既述の山本筑郎参謀が転換の必要を議論の席上で進言したのが、いつであったか、どのように公式に受けとめられたかについては、辻参謀は書いていない。しかし、度重なる攻撃失敗、輸送失敗、いまや幽鬼と化しつつある十七軍将兵の実情を見て、誰も考えなかったはずはない。大胆に作戦の打切りや撤退を公式の場で言い出す勇気がなかっただけのことであるにちがいない。
陸軍では、十一月十九日、大本営参謀岩越少佐のラバウル出張報告が作戦課内で行なわれ、その際、現地の辻、杉田両参謀の「勝算はきわめて少い」という意見が伝えられている。作戦課内という狭い範囲ではあるが、重要な場で、攻勢再興に対して否定的な響きのある発言がなされた最初のことではなかろうか。
海軍でも、ほぼそのころと思われるが、十一月十七日にトラック島を出発した連合艦隊の三和、渡辺両参謀が、軍令部首脳に戦略転換の意見具申をひそかに行なった。この戦略転換がどの程度までを言ったのかは判然しない。宇垣参謀長の日誌(十一月二十日)に、「……ガダル方面は維持程度に止めざるべからず、即ち作戦方針の大転換なり……」とあるから、とても撤収の必要までが進言されたとは思えない。
先に述べたように、ガダルカナル作戦を結局は打切りに導いたのは、船舶問題である。東京中央は、十二月上旬末まで、船舶問題で既述のようにもめにもめた。その間、現地では、毎日数十人ずつ餓死、病死しつづけたのである。
それまでに、十一月下旬、辻参謀が東京に帰還して、既に記したように悲惨なガ島の状況を述べたりしているが、ガ島放棄という重大問題が、公式機関で公式に議題にのぼったことはない。
強硬派の筆頭と目されていた田中作戦部長が東条首相(兼陸相)と衝突して、南方総軍へ転出となるのが十二月七日である。田中部長がすべてに関係し、すべてを決定したのではなくて、解決を求めていたすべての問題が、田中部長転出を時機的にちょうど大きな曲り角としていた感じがある。
海軍は、作戦の重点をガ島からニューギニアへ転換するにしても、あるいは撤収まで行くにしても、戦略転換としては陸軍よりはるかに容易であった。陸軍のようにほとんど不可能とも思える兵員の撤退問題はなく、艦隊の移動で事は足りるからである。したがって、撤収か否かの重大問題にも比較的柔軟な思考を維持することが出来たが、海軍側から撤退論を言い出すことは出来なかった。第一に、ガ島問題は海軍側の作為と不注意から起きたことであり、第二に、三回の攻撃失敗は陸軍の責任だが、作戦に必要な輸送補給を完うし得なかったのは海軍の責任である。第三に、このまま、もし撤退の余儀ない結果となれば、よしんばそれが大本営の命令であっても、現地陸軍は海軍に恨みを抱いて釈然としないであろう。
田中陸軍作戦部長転出の翌日、十二月八日、連合艦隊の黒島先任参謀が上京するに際して、宇垣参謀長は右のような含みで注意を与えたようである。
黒島先任参謀は十二月九日東京着、軍令部首脳と意見を交換し、服部陸軍部作戦課長とも談合して、服部課長はニューギニアへの重点移行には同意した。(服部課長はその職を去る直前であったから、撤退か否かのような重大事には触れなかったであろうと想像される。)
このころ、ガ島戦を如何にするかについて、陸海軍部双方の作戦課の少数の者が極秘裡に討議をはじめたようである。その討議のなかで海軍側の一部に「ガ島見殺し案」があるのを、陸軍側の辻参謀が聞いて激怒し、問題が大きくなりそうになって、陸海軍の交渉を部長以上に移すことになったという。(戦史室前掲書)
十二月十二日、東京出張中の連合艦隊黒島先任参謀は、東京での交渉経過を連合艦隊司令部に打電した。宇垣参謀長日記には「先任参謀より東京に於ける交渉状況を電報し来る。軍令部は全然同意、陸軍も一応了解、真剣なる研究を開始せり」とある。少し補足説明の必要があるであろう。三回の攻撃失敗のあとのガ島の状況は、奪回必成の可能性はほとんどなく、ただガ島にある十七軍将兵を細々と食わせるだけで、その補給を続けること自体が連合艦隊の艦艇を喪失しつづける現状である。したがって、大局的見地から、ここらで撤収を考える汐時である。ただ、撤退の方法が大問題であった。敵の航空基地の眼前で撤退するのは難事中の難事である。黒島先任参謀の感想では、このころは、まだ、陸海軍部双方の作戦課では、意見の一致をみていないようであった。
 田中作戦部長転出の一週間後、十二月十四日、服部作戦課長が陸軍大臣秘書官に転出し、後任には陸軍省軍務課長真田穣一郎大佐が任命された。
真田新作戦課長は、転出する服部大佐から事務の引き継ぎを受けたが、ガ島に関しては困惑しきっていたようである。真田少将日記に、日付ははっきりしないが、前課長から受け継いで間もないころと思われるところに、次のように判読される走り書きがある。
「イクラ考ヘテモ正直ノ処十分ナル確信ハナイ 船ノ関係モアリ抜キ差シナラス
三万ミコロシハ不可ナルモ不確|信《ママ》ナ事ヲヤリ物動ヲコハシテハ国家ノ前途ヲ……
第八方面軍ハ今日迄自信ナシ
軍司令官ハ湊川ノ楠公
自信ハナイカラヤラサルヲ得ス コレカ真ノ心境ラシイ
杉田(参謀──引用者)ナトハヤレハ破メツト考ヘアリ(以下略)」
十二月十五日、新作戦部長として綾部橘樹少将が満洲(第一方面軍)から羽田に到着した。
翌十六日、南東方面の主任参謀の瀬島少佐(前月下旬竹田宮中佐から担任引き継ぎ)が、真田課長に作戦経緯や現状を報告したが、この時点では、まだ、ガ島撤退に関して、主任幕僚が作戦課長に公式報告としては行なっていない。
 真田作戦課長は、十二月十七日、作戦班の瀬島少佐、航空班の首藤少佐を帯同して南太平洋方面に出張した。目的は勿論第八方面軍と連絡して、ガ高戦に関する中央の策案を固めるためである。
ガ島戦が戦略転換を必要とする時期に来ていたことは確かだが、転換といっても、その内容には深刻に異ったものがあった。まず、作戦重点をガダルカナルから東部ニューギニアに移行する。その間、ガ島での攻勢を維持する。あるいは、最低限の補給を行なって在ガ島将兵に玉砕するまで持久戦をやらせる。もしくは、危険を冒して一挙に撤退させる、等である。
詮じつめれば、三万の在ガ島将兵を餓死させるか玉砕させるか、それとも、敵の眼の前からかき消したように一挙撤退させることが出来るか否か、である。
真田作戦課長がラバウル方面出張に際して、ガ島戦の転換をどのように考えていたかを、正確に測定することは困難である。推測するのに、彼は、ガ島三万の将兵を撤退させることは技術的にほとんど不可能と考えていたのではあるまいか。とすれば、玉砕に至るまでの持久戦が余儀ないこととなる。
作戦課長の一行は十二月十七日横浜─サイパン、十八日サイパン─トラック、十九日トラック─ラバウルという旅程で飛んだ。往復ともに一行は連合艦隊司令部(トラック)に立ち寄っているが、問題の核心に関しては互に触れていない。
往路、サイパンで(十七日)、真田課長は出張から東京へ帰還途中の|兵站《へいたん》班長高山中佐、馬淵参謀と会い、高山中佐から現地状況の深刻な報告に接している。これは新作戦課長に強烈な影響を及ぼしたらしく、走り書きされた日誌の処々に次のような字句が判読される。
「ガ島輸送ノ困難性、成功ノ困難性 ガ島ニ対スル航空撃滅戦ノ見込確信ナシ(中略)
ニューギニアニ対スル事ヲ考ヘルトガ島ニ対スル丈ケノ航空撃滅戦ハ無意味(中略)
我海軍ノ無力 我制空権制海権アルハラボールノ近辺丈ケナリ 実ニ貧弱ナリ 補給ノ時ノ潜水艦 駆逐艦ノ勢力到底問題トナラス(中略)
鼠輸送ヲコツコツ手当ヲシテ強行スル意志ハ毛頭ナシ(中略)
軍需品丈ケテモ六〇隻使ツテ進入シテ1/2〜2/3ヤラレル(中略)
ガ島ニ対スル自信ハ海軍ハ既ニナイ 陸軍ノ口ヲ通シテ止メサセヨウトカカツテヰル(中略) ガハ止メタ方カ可」(真田日記)
 ラバウルでは、十二月十二日、第八艦隊参謀神大佐が、第八方面軍井本参謀に対して、海軍側は自信がなくなった、大本営からも近く命令が来ると思うが、攻撃計画と引く計画の二本建てで立案する必要がある、という申し入れがあった。(戦史室前掲書)
ガ島戦の初期、ガ島には一個大隊も投入すれば十分であると敵を軽く見ていた神参謀が、変れば変るものである。
神参謀のこの申し入れの背景には、輸送の苦肉の策として駆逐艦によるドラム缶輸送がはじまり、十二月八日にはそれすらも中止の申し入れをしなければならぬ事態となり、一方、ニューギニアでは、同じ日、バサブア守備隊が遂に玉砕するに至っていたのである。
十二月十四日、連合艦隊の渡辺安次参謀から第八方面軍に対して、ガ島撤退の場合は如何にするか、陸海軍幕僚間で研究したい、という提案があった。
撤退という問題が問題だけに、この時点ではまだ表立って研究するのは軍としては憚られ、井本参謀が個人的に研究の相手となることにしたという。(戦史室前掲書)
十二月十九日午前、第八方面軍司令官、同参謀長、参謀全員が会同して、その日午後到着が予定されている大本営作戦課長に対する説明事項を協議した。
真田作戦課長一行のラバウル西飛行場着陸は、十二月十九日午前九時三十分であった。
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