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水平線ストーリー21

时间: 2020-08-01    进入日语论坛
核心提示:ドレスダウンサンディと出会ったのは、真冬のハワイだった。      □「困ったなあ」と撮影コーディネーターのケン。太い腕
(单词翻译:双击或拖选)
ドレスダウン

サンディと出会ったのは、真冬のハワイだった。
      □
「困ったなあ……」
と撮影コーディネーターのケン。太い腕を組んでつぶやいた。オフィスの窓には、青くまぶしいホノルルの空が広がっている。
僕らは、広告の夏キャンペーンの撮影にきていた。その日の午後から、ロケハンがはじまることになっていた。
ところが、その日、僕らのガイドにつくはずのスタッフがケガをしてしまった。
2月のハワイは、エキサイティングだ。
オアフ島の北海岸《ノース・シヨア》には、高い波とサーファーが世界中から押しよせ、南海岸《サウス・シヨア》のホノルルには、僕らのようなコマーシャル関係者が押しよせる。
とても、遊んでいる撮影ガイドなどいないだろう。
「プロのガイドじゃなくてもいいかい?」
とケン。僕らは、うなずいた。
「じゃ、ときどき頼むバイトの娘《こ》にしよう」
ケンは電話に手をのばした。
      □
 僕らがケンに案内されたのは、カピオラニ|通り《ブルヴアード》にある1軒の店だった。
トロピカルなインテリアを売っているセンスのいい店だった。サンディは、そこで働いていた。
正確に言うと、姉さんがその店のオーナーで、サンディはよく店の手伝いをしているらしい。
「きょうの午後は、店を抜けられるらしいから」
とケン。サンディを僕らに紹介した。
サンディは、白人。金髪。よく動く青い瞳が、僕らにニッコリと微笑《ほほえ》んだ。
そして、ワンピースにテニスシューズをはいていた。
リゾート・ドレス風のコットンのワンピース。まっ白いテニスシューズ。
一見、ちぐはぐな組み合わせだ。けれど、テキパキと動き回るサンディには、それが実によく似合っていた。
サンディは、店を出る。
僕、プロデューサー、カメラマンの3人を、自分の4WDに乗せる。
「じゃあ、離陸よ!」
と親指を立てる。アクセルをふみ込んだ。
      □
 サンディは、オアフの海岸線にくわしかった。
おかげで、ロケハンは順調に終わった。
午後5時。僕らは、泊まっているコンドミニアムに戻ってきた。
たそがれの海を望むベランダで、飲みながらミーティングすることにした。
午後に見て回ったビーチの中から、撮影に使う1か所を決めるのだ。
テーブルにオアフの地図を広げる。めいめい勝手に、キッチンの冷蔵庫から飲み物を出してくる。
僕とプロデューサーは、プリモ・ビアー。飲めないカメラマンはジンジャエール。
そして、サンディは白ワインのオン・ザ・ロックだった。
ストレート・グラスに氷をひとつかみ入れる。そこへ白ワインを注いだ。
意外そうな顔をしてる僕らを、逆に驚いた顔でサンディは見た。いつも、そうして飲んでいるんだろう。
「ワインのオン・ザ・ロックか……」
と言う僕に、
「これならぬるくならないし、適当に薄まるから酔っぱらわないしね」
とサンディ。ニコリと白い歯を見せた。その金髪のロング・ヘアーが、海からの風にフワリと揺れた。
ワインのロックは、それ以来、ロケ隊の間で大流行した。
僕は、大切なことをサンディから教わったような気がした。
ワンピースにテニスシューズ。そして、ワインに氷……。
常識的に言えばおかしくても、本人がよければ、それでいいのだ。本人がそれを快適だと心の底から感じていれば、それがサマになってしまうのだ。
ドレスアップの良い意味での対称語である〈ドレスダウン〉という言葉を、僕はふと思い浮かべていた。
世間のルールよりも、自分の好みや快適さ。そんな当然のことを、僕はあらためて彼女に教わった気がした。
いまもワインをロックで飲むたびに、サンディの明るい笑顔を思い出す。
彼女はきょうもまた、まっ白いテニスシューズで、さっそうとホノルルの街を歩いているのだろうか。
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