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水平線ストーリー24

时间: 2020-08-01    进入日语论坛
核心提示:ミス・パイナップルの失敗《ミス》彼女と再会したのは、スーパーマーケットの中だった。      □ ハワイ。マウイ島。ラハ
(单词翻译:双击或拖选)
ミス・パイナップルの失敗《ミス》

彼女と再会したのは、スーパーマーケットの中だった。
      □
 ハワイ。マウイ島。
ラハイナの町はずれにあるスーパーマーケットだ。
僕は、夕食の買い物にきていた。
カートを押しながら、食料を選んでいた。
塩。コショウ。香辛料。そんなものを並べた棚の前で、女の客のカートとぶつかりそうになった。
「|ごめんなさい《エクスキユーズ・ミー》」
と言って、彼女は僕を見た。それが、デビーだった。
最初の3、4秒、お互いに顔を見合わせていた。やっと、
「もしかして、デビー?」
と、僕は言った。
「やっぱり……」
と彼女。僕をじっと見つめて、
「やっぱり、あなただったのね……」
と言った。
映画の|1《ワン》シーンみたいに抱き合いはしなかった。かわりに、腕ずもうみたいなハワイ式の握手を僕らは、かわした。
      □
 もう、4年前になる。
僕は、やはり撮影でマウイにきていた。
雑誌の仕事だった。男性雑誌のハワイ特集だった。
ちょうど、航空会社や旅行代理店が、マウイ島やハワイ島に観光客をよぼうとしている頃。そのタイミングにのった企画だった。
ホノルルから足をのばしてマウイ島へ飛ぼう。そんな16ページの企画だった。
カメラマンの僕。アシスタント。そして編集者。その3人でやってきた。
空港からラハイナにレンタカーを走らせているときだった。カー・ラジオのニュースで、ミス・パイナップルが決定したと地方《ローカル》局がアナウンスしていた。
ラハイナに着いて、すぐに、そのことを調べた。
マウイ島は、パイナップルが多くとれる島だ。その観光PRのために、毎年、ミス・パイナップルを選んでいるのだという。
僕らは、さっそく、取材にかけつけた。
ミス選びのコンテストは終わっていた。けれど、今年のミス・パイナップルに会うことはできた。それが、デビーだった。
白人。19歳。父親は実業家だった。広大な|玉ねぎ《オニオン》の農場とマウイ最大の銀行を持っていた。
デビーの屋敷には、オリンピック・サイズのプールがあった。
取材にいった僕らに、
「観光協会がパパの銀行に力を貸してほしくて、私を選んだのよ」
とデビー。照れながら言った。
それが本当かどうかは知らない。が、デビーは十二分に美しかった。
大学にいくまでの休暇《ヴアカンス》中だというデビーに頼んで、雑誌に出てもらうことにした。
〈ミス・パイナップルが案内するマウイ島〉と企画を少し方向チェンジして、1週間、撮影に走り回った。毎日、デビーがつき合ってくれた。マウイ育ちだという彼女に、いろいろなことを教わった。
「あのとき君が教えてくれた、パイナップルの選び方、覚えてるかい?」
僕は言った。デビーと僕は、ちょうど、パイナップルが並んでいる所にきていた。
「そんなことまで教えたっけ?」
と言うデビーに、
「ああ。こうやるんだって教えてくれたよ」
僕は、パイナップルを1個とった。片手の人さし指で、パイナップルのお尻、つまり底《ボトム》をはじいた。指の爪《つめ》で叩《たた》いた、その音をきいて、パイナップルの良しあしを判断するという。
「あれは、ずいぶん、役に立ったよ」
と僕。カートを押しながら言った。デビーは、微笑《わら》いながらうなずいた。
僕らは、4年前の思い出話をしながら、買い物をつづけた。
「今回も、撮影の仕事?」
「ああ。広告の撮影で、コンドミニアムに泊まってるんだ」
僕は言った。キャッシャーで、支払いをすませる。
      □
 僕とデビーは、スーパーから出た。
たそがれの駐車場を、ゆっくり歩く。僕らの影が、アスファルトに長い。
「そういえば、結婚したんだっけ」
僕は、きいた。確か、2年ぐらい前。知らせの葉書が、東京の僕にも届いた。
金髪の彼と家の玄関に並んでいる。そんな写真の刷《す》られた葉書。わきに〈大学を中退して結婚しました〉という自筆の走り書き……。
デビーは、しばらく無言。やがて、
「離婚したの、1年前に……」
ポツリと言った。僕の眼が、その理由《わけ》をきいていたらしい。
「相手は……財産目当てだったみたい」
と、デビーは言った。僕も、しばらく無言。やがて、
「ミス・パイナップルの失敗《ミス》か」
と言った。デビーは、まっ白い歯を見せる。
声を出して笑った。
その笑顔は、4年前と変わらず、美しかった。
クルマに歩きながら、
「だって、男の人はパイナップルじゃないから、お尻を叩いて良しあしを判断するわけにいかないものね」
デビーはカラッと言った。
今度は、僕が声を出して笑った。
やがて、デビーは立ちどまる。BMWのトランクを開ける。スーパーの買い物袋をそこに入れはじめた。
マウイの夕陽《ゆうひ》が、クルマのバンパーに光る。
頭上のヤシの葉が、たそがれの乾いた風に揺れていた。
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