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水平線ストーリー29

时间: 2020-08-01    进入日语论坛
核心提示:ジン・トニックが汗をかくあれは、僕が大学4年の夏だった。僕とクラスメートのY《ワイ》とK《ケイ》は、湘南《しようなん》の
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ジン・トニックが汗をかく

あれは、僕が大学4年の夏だった。
僕とクラスメートのY《ワイ》とK《ケイ》は、湘南《しようなん》の葉山《はやま》でバイトをすることになった。
同じクラスメートの実家が、葉山で海の家を経営していた。
日帰り海水浴客のための、どこにでもある海の家のひとつだ。
その学生アルバイトが、夏休みの後半、不足することになってしまったという。僕らは、遊び半分、そこに泊まり込んでバイトをすることになった。
玲子《れいこ》と出会ったのは、そんな8月だった。
      □
 玲子も、その海の家でバイトをしていた。
僕らと同じ大学4年生だった。そのこともあって、僕らと玲子はすぐに仲良くなった。
1日の営業が終わると、僕らは前の砂浜を掃除する。燃えるゴミは燃やす。
そんなとき、ホウキや熊手をふり回して、僕らと玲子はよくカンフーごっこをやった。
天気が悪くてヒマなときは、店の裏でキャッチボールをやった。
けれど、仕事中の玲子は、じつによく働く娘《こ》だった。
地元の娘《こ》だという話で、毎朝、自転車に乗って海の家にやってきた。
洗いざらしのボタンダウン・シャツ。ホワイト・ジーンズ。それにゴムゾウリというのが、いつもの彼女のスタイルだった。
その上にエプロンをかけて、彼女は働いた。
よく笑い、よく食べ、よく仕事をした。ほかのバイトの娘《こ》が嫌がるような仕事も、ほとんど彼女が引きうけていた。ときには、僕らと一緒になって力仕事を手伝うこともあった。僕ら3人は、みんな、彼女に好意を持った。いま思えば、恋愛感情に近いものだったかもしれない。
けれど、いつもそうであるように、夏は短い。気がつくと、もう終わろうとしていた。
いよいよ海の家を閉める日。
午後の3時頃、すべての片づけは終わった。
僕ら3人と彼女で、飲みにいこうという話がまとまった。
ところが、その頃の葉山には、あまり洒落《しやれ》た店はなかった。
いろいろ相談しているうちに、Kが、
「君んちで飲むってのはどう?」
と彼女に言った。彼女は2、3秒考えると、
「いいわよ。たいしたことはできないけど」
と微笑《わら》った。自宅の地図を描《か》いて、ひと足先に、自転車で帰っていった。
      □
「ここかよ……」
と、思わずYがつぶやいた。
彼女が描いてくれた地図どおり、20分ほど歩いていった。彼女の家の前に立ったところだった。
海岸から少し山寄りに登った静かな住宅地の一番奥。どっしりと落ちついた日本建築の屋敷があった。広い敷地の奥には、竹やぶや木立ちがあるようだった。
これが、いつもゴムゾウリでバイトにくる彼女の家とは……。僕らがあっけにとられていると、彼女が門のところに出てきた。
彼女は、朝顔のもようのユカタを着ていた。黄色い帯をしめていた。
いつもは肩にたらしているまん中分けのストレート・ヘアーは、簡単な髪どめでアップにしてあった。
カタカタとゲタの音をさせて、彼女はやってくる。いつもどおりまっ白い歯を見せて微笑《わら》うと、僕らを門の中に案内した。
「父も母も、仕事で海外だから、気軽に飲みましょう」
と彼女。僕らは、広い庭を見渡すエンガワで飲みはじめた。家の裏にある木立ちでは、セミが鳴いていた。
彼女は、ジン、トニック・ウォーター、そして氷を持ってきた。
そして、グラスは陶器だった。大きめの湯のみ茶わん。そんな感じの器で、彼女はジン・トニックをつくってくれた。
素焼きのようなシンプルな茶わん。その表面に、やがて冷たさがしみ出してくる。器が、しっとりと汗をかく。
「夏は、こうして飲むのが好きなの」
彼女は言った。確かに、気持ちよかった。ガラスの冷たさとはちがう。汗をかいた茶わんは、手にも唇にも、ひんやりと涼しかった。
「茶道の器から思いついたんだけど」
と彼女。自分でもそれを口に運びながら言った。
やがて、中年のお手伝いが皿を持ってきた。そこには、キュウリをスティックに切ったもの、エシャロット、そして味噌《みそ》がのっていた。
キュウリとジン・トニックの香り。夏の終わりの夕陽《ゆうひ》。セミの声。
結局、僕ら3人のだれも、彼女の恋人にはなれなかった。けれど、彼女と出会えてよかったと思った。
また、夏がくる。僕はそろそろ、食器棚からジン・トニック用の茶わんを出そうと思っている。
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